平均寿命が延び、長く生きられるようになった一方で、「老老介護」が増えている。厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」によると、在宅介護のうち介護者と要介護者がともに65歳以上の老老介護の割合は59.7%。実に約6割が高齢者によって高齢者が介護されている現実がある。介護の担い手が高齢化することで、“共倒れ”になるリスクもあり、老老介護は深刻な社会問題になっている。
そうしたなか、早くに親の介護を経験し、また亡くしたことで、結果的に老老介護を避けられたという人もいる。
「人間万事塞翁が馬、というのは本当ですね。何が不幸か幸福かわかりません。私の人生はどちらかといえば、若い頃に苦労してきましたが、70代のいまが一番充実しているように思います」
そう明かしてくれたのは、70代女性・ケイコさん(仮名)だ。実は学生時代と60代前半に2度、介護経験がある。その人生は、いかなるものだったのか。
専門学校を中退して父の介護
九州出身のケイコさんは、戦後から間もなくして生まれた10人兄弟の末っ子。当時、多人数のきょうだいは珍しくもなく、一番上の兄は「戦争に行って還ってこなかった」と両親から聞かされたという。
そんなケイコさんが高校生のときに不幸が襲った。母親が50代で事故死。悲しみを乗り越え、東京の専門学校に進学したケイコさんだったが、60代の父親がガンを患っていることがわかった。専門学校で勉強を続けたかったが、中退を余儀なくされた。
「私には学校をやめて地元に戻り、父を介護する選択肢しかありませんでした。兄や姉は働いていて、『お前がいちばん時間に融通が利く』『末っ子で一人だけ随分可愛がられたんだから、親孝行して当然』などという理由とともに、みんな逃げました。
男きょうだいが多かったこと、『女が介護をして当然』という風潮が強かったこともあったのかもしれません。ただ、私も父が大好きだったので、介護で実家に戻ることに、それほど迷いはありませんでした。むしろ私がちゃんと看取ってやる、ぐらいの気持ちでしたね」(ケイコさん、以下「」内同)
それから3年経たずして父親が亡くなり、再び東京に戻ったケイコさん。20代で両親がいないことから、「就職や結婚では苦労した」と振り返る。