田代尚機のチャイナ・リサーチ

【日本産水産物の輸入禁止措置は長期化必至】なぜ中国は「処理水は安全だ」という日本の主張をまったく認めないのか?

北京のレストランには日本産水産物を拒否する看板も(AFP=時事)

北京のレストランには日本産水産物を拒否する看板も(AFP=時事)

 水産物を巡る日中対立はどこで着地するのか──。中国税関総署は8月24日、日本を原産地とする水産物の輸入について全面的に(暫定)停止すると発表した。

 日本における中国向けの水産物輸出額(2022年)は871億円で、中国が国別第1位、全体の22.5%を占めている。第2位は香港で755億円、第3位は米国で539億円。以下、台湾、韓国、タイ、ベトナムの順である(農林水産省、輸出・国際局資料より)。香港はすでに東京、福島、千葉など10都・県からの水産物の輸入を禁止すると発表している。

 中国、香港によるこうした措置は、輸出に活路を見出そうとしている日本の水産事業者にとって影響は大きい。中国向け輸出の半分以上をホタテが占めており、とりわけホタテ事業関係者に与える影響は甚大だ。

 禁止する理由について、公告をみると「福島の核汚染水(原文のママ)を海に流すことによって食の安全が放射線汚染リスクにさらされることを全面的に防ぎ、中国の消費者の健康を保護し、輸入品の食の安全を確保するため」としている。

 ALPS(多核種除去設備)による処理について、日本側は科学的な根拠に基づき、完全透明に行っていると主張しているが、中国側は一貫して“汚染されている”、“公表されたデータは信用できない”などと主張し続けている。IAEA(国際原子力機関)が国際安全基準に合致していると認めているにもかかわらず、なぜそうした論調になっているのか。

東京電力に対する不信感

 以下、過去に行われた複数の中国外交部による定例会議の内容をもとに、中国側の考え方と主張を見てみよう。

 福島第一原子力発電所から発生する汚染水には、数々の放射性物質が含まれており、ALPSによって処理してもそれらを完全になくすことは困難である。その点で、「正常な運転を行っている発電所から発生する処理水とは異なる」という主張だ。

 中国が問題としているのはトリチウムだけではない。その他の放射線物質(セシウム134/137、コバルト60、ルテニウム106、アンチモン125、ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネチウム99、炭素14など)が残存していることにも注目している。ちなみに、日本の環境省によれば、「放出時の処理水はいずれも規制基準値の100分の1未満となる」としているが、技術的にゼロとするのは難しい以上、「薄めて濃度を低くして流せばそれでよいということになりはしないか」──これらが中国側の考え方である。

 さらに中国側は、データを提供している東京電力に対して強い不信感を示している。たとえば、9月1日の中国外交部定例会議における各国記者との質疑応答の内容をみると「国際原子力機構のホームページ上に公開された処理水データの注釈にははっきりと東京電力により提供されたと記されている。東京電力はこれまで何度もデータの改ざん、隠蔽、虚偽報告を行ってきた。長期間にわたり、国際的な監督検査メカニズムが働いておらず、日本側が唯一の汚染水データの検査者であるといった現状において、検査が科学的で透明だと信じることができるだろうか」と記している。

 もちろん、日本側はこれに対して激しく反論しており、両国主張の隔たりは大きい。現時点では暫定的に輸入を停止するとしているが、長期化は必至の状況だろう。

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