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イスラエル・パレスチナ問題、その根源は明確なのになぜ止められないのか? 問われる「国連の存在意義」

国連も事務総長も存在意義なし

 一方、イスラエルは1967年の第3次中東戦争に大勝して以降、ヨルダン川西岸地区を中心に国策としてユダヤ人の入植を推し進め、いまや入植者は70万人以上に達しているとされる。だが、この“征服者による入植”は人類史の大きな汚点であり、負の歴史はすべて入植が発端だ。

 そもそもイスラエルのパレスチナへの入植は国際法(ジュネーブ条約)違反であり、日本政府もイスラエル政府に対して入植活動の完全凍結を繰り返し呼びかけている。今年2月にはイスラエルのネタニヤフ首相がヨルダン川西岸地区で新たに9か所の入植地を承認したため、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアはそれを非難する共同声明を出した。6月にイスラエル政府が同地区で4560戸の住宅建設を承認する方針を明らかにした時もアメリカは反対し、さらにバイデン大統領は10月、パレスチナ人を攻撃している過激派の入植者の行動に懸念を表明した。

 しかし、ネタニヤフ首相は馬耳東風で、全く効き目がない。誰もが問題の根源は入植だとわかっているのに、なぜイスラエルを止められないのか? 国連が機能していないからである。

 国連におけるパレスチナは2012年以来、「オブザーバー加盟」という中途半端なポジションのままだ。国連がオスロ合意に基づいて「2国家共存」を目指すのであれば、イスラエルはパレスチナの独立を支援しなければならないし、当然、国連も「国家」として正式加盟を承認すべきである。

 また、イスラエルとハマスは11月末に停戦して互いに人質を解放したが、国連安全保障理事会が戦闘の「人道的一時停止」を求める決議案を採択したのは、戦闘が始まってから1か月以上も経過した11月15日だ。それまでに安保理では4本の決議案がアメリカやロシアなど常任理事国の拒否権行使で否決されたのである。

 しかも、国連のグテーレス事務総長は戦闘が始まった直後に、あろうことか中国の「一帯一路」国際会議に出席していた。こんな体たらくでは事務総長の資格はないし、国連の存在意義もない。本連載で何度も主張してきたように、国連に代わって国際紛争を解決する新たな仕組み(新・国連)をつくるしかないだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『「老後不安」を乗り越える シニアエコノミー』など著書多数。

※週刊ポスト2023年12月15日号

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