大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「Jアラートは無意味」 大前研一氏が指摘する「専守防衛」にこだわる国防の問題点

「専守防衛」を続けることの是非が問われている(イラスト/井川泰年)

「専守防衛」を続けることの是非が問われている(イラスト/井川泰年)

 ウクライナ戦争でウクライナ側は、多大な犠牲者を出しながら「専守防衛」を続けている。この状態は果たして正解なのだろうか──。そして、いま日本では防衛力強化に向けて、さまざまな議論が展開されている。日本の国防のあるべき姿はどのようなものか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

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 専守防衛は、言うまでもなく、日本の防衛の基本的な方針である。すなわち、相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略を堅持している。

 しかし、いまや日本は、ウクライナと同じように隣国からミサイルを撃ち込まれたらどうするのか、あくまでも専守防衛で人的・物的被害が出るまで座して待つのか、ということが喫緊の課題になっている。

 たとえば、独裁体制を確立した中国の習近平国家主席は、台湾統一のためには武力行使も辞さないと言明している。もし台湾有事が起きてアメリカが介入すれば、それは即、日本有事となるだろう。その場合、中国軍のミサイルの主な標的は、在日米軍基地がある沖縄や岩国、横田、横須賀、佐世保などになると予想される。しかし、それに対応できるだけの防衛力は今の日本にはないのだ。

 そういう状況下で起きた“事件”が、北朝鮮の弾道ミサイル発射に伴う「Jアラート(全国瞬時警報システム)」誤報問題だった。

 Jアラートはミサイルが日本の領土・領海に落下するか、日本上空を通過するおそれがある時に出されるが、警報が届いた時はすでに通過予想時刻を過ぎていたり、ミサイルのコースから外れている地域が対象になったり、途中で失速・自爆したのに警報を鳴らし続けたりした。Jアラートは今回5年ぶりに発出されたが、その間日本は何も進化していなかったのである。

 中国やロシアのような軍事大国ではない北朝鮮ですら、迎撃が難しいとされるロフテッド軌道(通常よりも角度をつけて高く発射し高高度から落下させる弾道ミサイルの軌道。極超音速で迎撃が困難)や多弾頭型の弾道ミサイル開発を進めているとされる。それらはJアラートの想定を超えている。つまり「ミサイルが発射されてから警報を出して避難を呼びかける」という概念そのものが無意味なのだ。日本も韓国や台湾のように防空壕や核シェルターを各地に作るべきだという意見が出てきているが、まだそのほうが国民の安心・安全につながるかもしれない。

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