大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「Jアラートは無意味」 大前研一氏が指摘する「専守防衛」にこだわる国防の問題点

「竹槍訓練」を彷彿させる愚

 なぜ、こんな体たらくになっているのか? 憲法第9条の呪縛があるため、政府・与党は野党と左派マスコミなどからの批判を恐れ、国防について「本音」ではなく「建前」の議論に終始してきたからだ。

 日本は戦後77年、一度も改憲せずに専守防衛を墨守してきた。反撃能力は持たず、それが許されるのは「わが国に対して急迫不正の侵害が行なわれ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行なわれた場合」に限られる(1956年の政府答弁)という姿勢を堅持してきた。そのため、周辺国に届く射程のミサイル、戦闘機を運ぶ攻撃型空母、航続距離の長い爆撃機などは保有していない。

 このように憲法改正の議論をなおざりにしたまま、安倍晋三政権が「安保法制」によって憲法解釈をゴム紐のように変更し、集団的自衛権を容認することで米軍頼みの防衛体制を続けてきた。しかし、これは単なる問題先送りでしかない。

 私自身はもともと新たに憲法を制定すべきと考える「創憲」論者だが、改憲せずに専守防衛にこだわり、使えないJアラートに依拠して右往左往するのは、戦時中、B29が飛来しているのに「竹槍訓練」をしていたようなものである。

 ウクライナ戦争や緊迫度が高まる東アジア情勢を踏まえると、もはや日本はタブーなしに現実的・具体的な防衛力強化を、改憲を含めて真正面から議論すべきである。むろん私は防衛力・軍事の専門家ではないが、もし今後の防衛体制の整備について助言を求められたら、とりあえず必要十分で有事も補給が確保できる外国製兵器の購入を提案する。その時、最も参考になる国はインドだと思う。これまでインドはロシア製兵器を購入してきたが、近年はアメリカやフランス、イスラエルなどからの調達を増やして軍事力を強化している。

 日本の場合、ミサイル迎撃はイスラエルの防空システム「アイアンドーム」、反撃能力はアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を購入すればよいだろう。さらに台湾製やトルコ製のドローンも調達し、これから極めて重要なサイバー攻撃に対する防御システムはイスラエルやインドの協力を得て構築すべきだと思う。

 北朝鮮のミサイルは、おそらく暴発的に撃ち込まれる。中国が台湾に侵攻して在日米軍が出動したら、前述したように日本国内の在日米軍基地が標的となる。それを前提としたミサイル迎撃システムや反撃能力、防空壕・核シェルターなどを可及的速やかに整備しなければならない。

 いま防衛費増額の財源について議論が起きている。だが、それを言うなら、2022年度の防衛費(約5.5兆円)を優に上回るガソリン・電気・ガスの補助金や、不公平で刹那的な効果しかない「全国旅行支援」などの愚策をやめて防衛費に回せばよいと思う。そのほうが、結果的に国家・国民のためになるはずだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年12月23日号

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。