就任から1週間後に衆議院を解散した石破茂首相。総選挙は10月27日投開票となる見込みだが、その結果次第では、国会の勢力図が塗り替えられ、政権運営が大きく変わる可能性がある。そうしたなかで、金融とグローバリゼーションを題材にした新作『エアー3.0』を上梓した小説家・榎本憲男氏は、「裏金問題や総選挙をめぐるマスコミ報道は石破政権の本質から目を逸らすことにつながる」と警鐘を鳴らす。そんな榎本氏がいま注目するのは、次の総選挙の争点となるべき、石破政権の経済政策の行方だ。
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石破政権が発足しさまざまな報道が飛び交っている。総じて評判はあまりよろしくないようだ。裏金問題を取り出されている議員の処遇や、就任前にはやらないと言っていた解散・総選挙をやるなどの変節が批判され、ご祝儀的な部分をさし引けば、世間の期待感は低いと言えそうだ。次の選挙では、自民党が53議席を減らすという予測も一部で出ている。
ただ、ここでは世間から醸し出されている空気を勘案しない。また、マスコミが好んで取り上げる二点、裏金問題と解散総選挙についても述べない。現在のマスコミは、この二点に主眼を置き、さらに政治を人間ドラマとして報道しているが、これは石破政権の本質から目を逸らすことにつながると僕は判断している。なので、本コラムでは、石破政権の経済政策のみに焦点を当てて語ってみたい。
石破政権が自らが目標とした経済政策、日本経済の復興は実現できるのか。そして、このような政策に妥当性がないとするならば、石破政権の経済政策を、チェックし、それを批判し待ったをかけるのは誰でどの政党なのかについて、私見を述べさせていただきたい。
石破首相のやりたい政策は総裁選時の公約にある
まず、石破政権は経済政策においてなにを目論んでいるか。地方創生と金融正常化が二本柱である。地方創生はとりあえず横に置く。現時点では具体的な策があがってきておらず、地方創生など必要ないという政治家もいないからだ。そして、この地方創生と密接に絡み合っているのが、金融正常化なので、こちらに焦点を当てる。
金融正常化とは、金利を日銀の力で低く押さえ込んだりしない、金融緩和政策を縮小し、ETFなどの資産購入も手控えていく、などをイメージすればいいだろう。ただ、これは全面的にではないが、市場のメカニズムを重視し、中央銀行が介入することを嫌う新自由主義と親和性のある考え方である。また、角度を変えて言えば、プライマリーバランスの黒字化にむけて努力するということであり、増税や公共事業の削減に結びつきやすい方針である。
先に述べた地方創生をテコ入れするお金も絞るということになり、矛盾するわけであるが、そこをどうやって行くのかはいまはわからない。ただ、この方針は、完全に反アベノミクスであることはまちがいない。自民党内でこれまで安倍政権に対して批判的なスタンスを取ってきた石破首相の反安倍的な色が濃厚な経済政策であると言えよう。