内部推薦の拡大の中で中学受験偏差値が上がった学校も
一方で、「学部を選ばなければ大学へ内部進学できる」率が高まっている。
あるYouTuberは「早慶もMARCHも金持ちの子どもを入学させたいから内部進学を増やしている」と煽っているが、もちろんそれは事実ではない。注目を浴びるためにそう言っているのか、単に情報を持ってないからそう言っているのかは謎だ。
なぜ、付属校や系列校からの内部進学が増えているか。推薦入試を拡大していく中で、総合型選抜や公募制は書類審査や面接、小論文などが必要で手間がかかるから、そうそう増やせない。一方で、内部推薦ならば高校側が優秀な生徒を送り込んでくれるからだ。内部進学の枠が全員分あっても、もちろん進学させてもらえない生徒は出てくる。付属校や系列校は生徒を教育すると同時に選抜もする。
この内部推薦の拡大の中で、中学受験偏差値を上げているのが品川区にある香蘭女学校だ。
立教大学の系列の女子校だ。1学年160名の少数制で、きめ細かい教育をしている。一昔前は香蘭から立教大学への内部進学は80名であったが、2020年度に97名、2024年度は160名になった。つまり、1学年の生徒数とイコールとなったわけだ。その効果もあってか、中学受験偏差値が上がっている。2017年は四谷大塚偏差値51だったのが、2025年現在は59と上がっている。
香蘭の2024年度の進学実績を見ると、64%が立教大学へ進学。残りは他大学に進んでいる。外部への進学者の29%が理工系、医療系学部が24%。国立大学の合格者が6名(現役のみ)、東京理科大の合格者が7名、芝浦工大の合格者が4名。女子の理系進学が増えているが、香蘭の生徒たちも同様のようだ。
香蘭の生徒の母親はいう。
「親としてはどこの学部でもいいから立教に行ってほしいと思います。ただ、本人は立教に希望する学部がないから、外部受験をしようかなと言い出しています」
今、高校生は大学を偏差値やブランド力、就職などで選ばず、「やりたいことができるかどうか」を選ぶ。
そのトレンドの中で、選択肢が狭まる内部推薦は、生徒たちにとって、使い勝手がよくない入試にもなっている側面もあるのかもしれない。高校受験の段階ならば「どの大学のどの学部に行きたい」とある程度、決めることはできるだろう。しかし、中学受験をするのは小学6年である。その段階で大学のどの学部で何を学びたいかなどを決めるのは難しい。
今回は大学受験で推薦が6割の時代に付属校へ進学するリスクについて言及した。次回は系列の大学には存在しない学部に進学したくなったり、希望する学部に進学できない場合について見ていきたい。
■第2回記事:《医学部や理工系を目指すのに付属校は有利なのか?「慶應医学部に内部進学するのは化け物です」と塾講師》に続く
杉浦由美子氏の著書『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。著書に『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、週刊誌や月刊誌で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも日々更新中。最新刊は『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)。