「モバイルの民主化」を目指すという
「つながりやすさ」を実感できるか
その後も世界各国の通信会社がASTの衛星モバイル・サービスの利用に前向きな姿勢を見せており、各社の利用者を足し合わせると「世界30億人にのぼる」(三木谷氏)という。
楽天モバイルは携帯ネットワークで高価な専用の通信機器を使わず、汎用サーバーを使って重要な機能はソフトウエアで処理する「完全仮想化」を世界に先駆けて実現した。今、日本の楽天モバイルユーザーが使っているのはこの「完全仮想化ネットワーク」だ。
ソフトウエアが主体のオープンなネットワークなので、衛星モバイルのような新しい技術にも柔軟に対応できる。さまざまなメーカーの機器を自由に組み合わせてネットワーク構築のコストを飛躍的に下げる「Open-RAN(オープン・ラジオ・アクセス・ネットワーク)」は楽天モバイルの十八番であり、同社はこのパッケージを子会社の楽天シンフォニーを通じて世界の通信会社に売り込んでいる。ASTによる衛星モバイルの商用化は、Open-RANのビジネスにも追い風になるはずだ。
もっとも、2026年に商用サービスが始まっても、地上でスマホを使っているユーザーは衛星モバイルを実感しない。地上の基地局の電波が弱くなると、楽天モバイルのネットワークが自動的に衛星モバイルにハンドオーバー(切り替え)するからだ。実感するのは「つながりやすさ」のみだろう。
楽天モバイルの利用者は、完全仮想化ネットワークを使っていることも普段は全く実感しない。しかし「データ使い放題で月額3168円」という破格の値段は、在来の携帯ネットワークに比べて設備投資とメンテナンス・コストが格段に安い完全仮想化ネットワークだから実現できた。
“最後の海賊”三木谷氏が目指す「モバイルの民主化」は着々と進んでいる。
【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日経新聞編集委員などを経て2016年に独立。著書に『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など