農水省が輸入米に反発するのはなぜか(江藤拓・農林水産大臣/時事通信フォト)
高止まりするコメ価格が日本人の食卓を苦しめている。供給不足が叫ばれるなか、政府内では米国産のコメの輸入を拡大する案が浮上してきた。流通する量が増えれば価格が安くなるはずだが、農林水産省はこれに強く反対する。主食として保護されてきた「国産米」を今後も守るべきと訴えるのだが、その主張は本当に正しいのか──。【前後編の前編】
一石二鳥の“トランプ輸入米”
スーパーで割安な国産米が手に入らず、かといってネットオークションなどに出回る安いコメに手を出すのは不安……といった考えを持つ消費者は多いだろう。安心できる国産米を気軽に食べられる日は、まだまだ戻ってきそうにない。
全国紙の経済部記者が解説する。
「昨年の夏ごろから国内でコメの品薄が深刻になっていますが、統計をみても歴史的な価格上昇と言えます。総務省が発表した今年3月の消費者物価指数で、コメ類は前年同月比で92.1%も上がりました。これは、比較できる1971年1月以降で最大の上げ幅です。政府は備蓄米の放出を始めていますが、コメの価格を下げる効果が出ているとは言えません」
国民の不満が募るなか、政府内では、これまで関税で保護されてきたコメという「聖域」に踏み込み、米国産のコメの輸入を拡大するという案が浮かび上がってきたという。きっかけは同盟国である日本にも貿易をめぐり厳しい要求を突きつけるトランプ米大統領の存在だ。
「関税措置をめぐる日米交渉で、米国側は検討品目としてコメを挙げたとされます。数字はデタラメですが、トランプ大統領も『日本は(アメリカ産のコメに)700%の関税を課している』と不満を表明している。コメ農家を保護してきた政府にとっては本来譲れない品目ですが、国内は歴史的なコメ不足に見舞われている。そこで政府は、米国産のコメの輸入拡大を交渉カードにすれば、トランプ関税に対して譲歩の姿勢を示せると同時にコメ不足の解消にも役立つと考えたとみられます」(民放政治部記者)
一石二鳥の“トランプ輸入米”とも呼ぶべき案に聞こえる。 実現すればその波及効果も大きそうだ。日本食糧新聞の佐藤路登世・記者が解説する。
「記録的な冷夏でコメ不足に陥った“平成の米騒動”ではタイ米などが緊急輸入されました。今回、トランプ関税の引き下げ要求が実現すれば、米国産のコメだけでなく、日本米と同じ短粒種の韓国米や台湾米も増えるのではないかとみています」
牛丼や立ち食いそばなど原価を1円でも抑えることで利益をあげる飲食チェーンでは、輸入米の導入が進んでいる。その供給が増えれば、同じ店頭に並ぶ国産米の価格を押し下げる効果が期待できるわけだ。