中国はデフレ要因、米国はインフレ要因に
マクロ面で両国は表裏一体の関係にあり、外的ショックはどちらから発したとしても共振して両国に影響する。
米国の輸入額は2024年においても世界最大で、追い上げの目覚ましい中国と比べてもまだ1.3倍の規模がある。米国は長年、この巨大市場の強みを生かし、製造の上流、中流過程を他国、特に中国を中心としたアジアに任せることで、付加価値の最大化を進めてきた。その結果として経済構造上、米国では対中貿易赤字が最大に、中国では対米貿易黒字が最大となっている。
中国側の統計によると、2024年における米国への輸出額は全体の15%を占める一方、米国からの輸入額は全体の6%に留まっている。その結果、3610億ドルの対米貿易黒字が発生しており、裏返せば米国では同額の対中貿易赤字が発生している。もし両国の貿易が制限されることになったとすれば、需要(輸出)、供給(輸入)減少分を内外でカバーする必要があるが、巨額の貿易黒字が減少する中国側は相対的に需要の減少分が多くなりそれがデフレ要因となり、米国側は相対的に供給の減少分が多くなりインフレ要因となる。
中国では不動産不況による需要不足が引き続き深刻な状況なので、これまで以上のデフレ対策(需要拡大政策)が必要となりそうだ。米国では新型コロナ対策の副作用を利上げでうまくコントロールし、2024年9月からは利下げを開始したタイミングでのインフレ要因の発生となる。スタグフレーション発生のリスクが高まっており、難しい金融政策のかじ取りが求められる。
トランプ大統領の真の狙いは、国民の生活に影響を与えかねない輸入のブロックではなく、他国に市場を開放させることによる輸出の推進によって貿易赤字を解消することなのだろう。投資家の立場からいえば、もしそうであるなら相互関税政策をむやみに警戒する必要はないのかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。