間接的に“円安を牽制する”形に
トランプ政権は、表向きは通商政策に集中しています。日本や中国、EUに対する関税の引き上げをちらつかせ、貿易不均衡の是正を狙っています。
5月24日の3回目の日米関税交渉において、為替という言葉は一切出ていません。ただし、円安が長引くと、日本の輸出企業が価格競争力を持ちすぎるため、米国の貿易赤字が拡大しやすくなります。
米国にとってそれは不都合な事態。だからこそ、「関税交渉の強化」「日本の政策対応への遠回しな圧力」といった形で、間接的に“円安をけん制する環境”を整えようとしているようにも見えるのです。
なぜ米国は「円安是正」を望んでいるのか?
まず、円安が米国に不利な理由は、米国製造業の競争力が落ちるからです。
日本や中国の企業が円安・人民元安で価格を下げてくれば、海外市場で米国企業は太刀打ちしづらくなります。
トランプ大統領は、再就任から半年を迎えた今も、「米国第一」を前面に押し出し、製造業や労働者層へのアピールを強化しています。関税強化やドル高牽制といったスタンスは、再選直後から一貫して政権の柱となっており、円安是正の流れは、そうした背景とも無関係ではありません。
つまり、トランプ政権にとって表向き為替には触れずとも、実際には円安是正の環境が整う方が都合がいいのです。
日本株への影響、「内需か外需」だけでは語れない
では、この「静かな円高傾向」が日本株にどう響いているか。円高になると、最も打撃を受けやすいのは海外売上高比率の高い企業群です。自動車、電子部品、精密機器、工作機械などは、売上の多くがドル建てで、円に換算した際の収益が目減りします。
たとえばトヨタやキーエンス、ファナックといった企業は、売上の6~8割が海外です。円高が進むと、この“円換算ベースの業績”が下方修正されやすく、株価の下落要因になります。
一方で、内需株や生活インフラ系(通信・小売・不動産)などは、円高の影響を受けにくく、むしろエネルギー・輸入コストの低下で利益が改善する可能性もあります。
ただし、内需関連株=すべて安心かというと、実はそうでもありません。
たとえば、インバウンド需要が追い風になっている小売・外食・ホテル業などは、円高によって訪日外国人の減少や旅行コスト上昇が引き起こされる可能性があり、想像以上に影響を受けるセクターです。
逆に、原材料や燃料を海外から輸入している業種(電力・鉄鋼・食品など)では、円高は仕入れコストの低下につながり、利益改善に寄与することがあります。
さらに、海外展開している企業でも「現地生産・現地販売」のモデルをとっている企業(ユニクロや資生堂など)は、為替の影響をある程度吸収できる体質になっています。
このように、「円高=輸出に悪い」「内需=安全」といった単純な構図では読み解けないのが、今の日本株市場の特徴です。