現在の投資スタイルが確立されるまでを語った(提供写真)
お笑いコンビ「パックンマックン」として長年活躍し、情報番組などのコメンテーターとしてもお馴染みのパックンことパトリック・ハーラン(54)。1993年にハーバード大を卒業して来日後、芸人になる前に英会話教師をしていた時代から投資を始め、30年近い投資歴をもつ。その間、世界の株式市場はITバブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍など激動の期間を経てきた。日本株は30年以上の低迷期を経て2024年2月に「バブル超え」を記録したものの、以降は乱高下が続いている。パックンの投資はこうした市場の荒波をどう乗り越えてきたのか。フリーライター・清水典之氏によるパックンへのロングインタビューの一部を紹介する。
ITバブル崩壊で変えた投資スタイル 「勝負」から「協力」に
──著書によると、最初は個別株から入ったそうですね。
そうです。IT株でボロ儲けしている友人や、証券マンに勧められた個別株を買っていました。しばらくは上がっていたのですが、1999年にITバブルが崩壊して、持っていたIT株がストンと落ちた。私はその友人に電話して、「お前が勧めた株が暴落したぞ」となじったら、「えっ? お前まだあの株持ってたの?」って言われて、ああ、そういうことかと。その友人はとっくに売り払っていたんです。彼は今も友人ですが、投資が上手くて、50億円くらい稼いでいるんですよ。
このバブル崩壊でビビっちゃって、全部売り払って、がっくり落ち込みました。私は賢いと思っていたけど、どうも私よりも賢くて、すごい情報網を持っていて、リサーチして分析して投資をしている人がいるぞって気づいたわけです。少々テニスが得意って程度で、錦織圭さんに挑んでも勝てないのと同じ。友人と飲んで帰ってきて、数字見て適当に「これ買おう」では勝てない。
この体験から、毎日、株価を見てドキドキしながら暮らすスタイルはもう嫌だと思った。心理学で言えば、人間には「損失回避」という精神的な特徴があって、何かを得たときの喜びより、何かを失ったときの悲しみのほうが大きいと感じるんです。株価を見て「一喜一憂する」と言いますが、「喜」より「憂」のほうが大きい。株価は上がったり下がったりするので、「喜」と「憂」が半々ですが、「喜」より「憂」を強く感じるから、総体的には「憂」に心が支配されていく。こういう生活から脱出したかった。
だから、株式売買で勝負するんじゃなくて、協力しあうほうにシフトしようと思ったんです。株価の変動で儲けるのではなく、長期投資で、企業や市場全体が膨らんでいく中に自分も入れば、私の資産も膨らんでいくよねという考え方に切り換えた。