好意的な口コミが多かく導入店舗の宣伝効果も
なお、「ゆっくりレジ」を導入したスーパーは売上を急上昇させ、さらに、顧客満足度を向上させました。もちろん、要因分析は慎重にするべきで、「ゆっくりレジ」の導入だけを売上増加の要因とするのは強引です。ただし、増加の一因を担ったのは間違いないでしょう。「絶対にゆっくりレジを使う」というお客からの声が多数あったといいますから。
このゆっくりレジは、社会貢献の側面から見ると、高齢者や認知症の方の外出機会を増やした偉業であるとすらいえるのではないでしょうか。やはり、好意的な口コミが非常に多かったようで、導入店舗の宣伝効果も高かったようです。だって買い物をしに行くと、ゆっくりお会計ができて、その間に店員さんと話すこともできます。長話になっても、誰も怒らない。そこで他者と触れ合うことができます。普段あまり人と話す機会のない人や話し好きの人には、とくに嬉しいサービスのはずです。
このように、「ゆっくりレジ」は単なる思いつきのサービスの一つではなく、顧客ニーズを的確にとらえた戦略的なビジネスモデルといえますね。スピードの時代から逆行する「ゆっくり」の価値を提供することで、利益を上げることに成功しています。
※坂口孝則著『駄菓子屋の儲けは0円なのになぜ潰れないのか?』(SBクリエイティブ)から一部抜粋して再構成
【プロフィール】
坂口孝則(さかぐち・たかのり)/経営コンサルタント、講演家。セミナー会社経営。大阪大学卒業後、電機・自動車でのサプライチェーン・調達業務に従事。現在、未来調達研究所株式会社に所属。同社にて、多くの無料教材を提供中。コンサルティングにくわえて、企業講演、各メディアでの出演・執筆を行う。主な著作に『調達・購買の教科書』『製造業の現場バイヤーが教える 調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『営業と詐欺のあいだ』『買い負ける日本』(幻冬舎)、『駄菓子屋の儲けは0円なのになぜ潰れないのか?』(SBクリエイティブ)等がある。