1月、4月に続き今回で今年3回目の中国訪問をしたエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(Getty Images)
米国商務省は2025年4月、エヌビディア製AI半導体“H20”の中国向け輸出について、許可が必要となる輸出管理対象としたが、エヌビディアは7月14日、承認される見込みだと発表した。エヌビディアのジェンスン・フアン(黄仁勛)CEOがトランプ大統領と会談し、輸出許可を直接願い出たことで実現したとみられる。
ハワード・ラトニック商務長官は7月15日、米国メディアへの独占インタビューにおいて、「“H20”は性能の劣る“4番目に優れた性能の製品”に過ぎず、先端技術の流出には当たらない。中国が完全に自立できないようにするための緩和措置である」といった趣旨の発言をしており、更に中国のレアアース輸出規制を解除させるための米中合意に従った措置であることを示唆している。米国側の情報をみる限りでは、米国の技術的優位性についてまだ余裕があるような印象もあるが、中国側の情報をみると状況はもう少しひっ迫しているようだ。
“H20”は2023、2024年時点の主力商品である“H100”に対してGPUコアの数量を41%減らし、計算能力を15~20%程度に抑え、当時の対中輸出管理規制にかからないように性能を落とした中国向け製品である。とはいえ、グラフィックメモリ量と帯域幅は“H100”よりも優れており、“大きなビデオメモリと弱い計算能力”といった組み合わせは、金融システムのリスクコントロールであるとか、医療現場での画像分析のような特定の業界、つまり、ある分野に特化して設計されたAIエージェント用として使われるのであれば、利用価値の高い製品だ。
一方、バイデン政権が2022年に対中半導体輸出管理規制をはじめて以来、中国において半導体の独自開発に対するインセンティブが高まっており、4月に“H20”も輸出制限を受けたことで、国内代替製品の開発速度が更に加速している。
エヌビディア“B30”投入計画にファーウェイの対抗策
本土複数のメディアによれば、ファーウェイ(華為技術)製AI半導体“昇騰910B”のメモリ、帯域幅では“H20”に劣るものの、計算力(FP16性能、INT8性能比較)では“H20”の2倍以上で、価格は20%安い。国内から大量の受注があり、中東向け顧客からの受注もあるなど、国産先端半導体としては初めての本格的な輸出製品となっている。後継となる“昇騰910C”が2025年3月に発売されており、本土情報によればこちらの推論能力は“H100”の60%程度まで高まっており、価格は4割ほど安いようだ。
また、A株上場企業“寒武紀”が製造する思元590は推論において“H20”並みの性能を有しているという。2025年1-3月期売上高は11億1100万元(228億円、1元=20.5円で計算)ながら、前年同期比4230.22%増とAI半導体事業の立ち上げに成功しており、開発プラットフォーム“CambriconNeuware”を独自に用意し、国産代替市場での大きなシェア獲得を目指している。
エヌビディアは“H20”を大幅に値下げした上で在庫を一掃し、9月には“H20”の後継として“Blackwell”の性能を落とした製品“B30”を投入する計画のようだ。
本土メディアによれば、ファーウェイの市場シェアは2024年には20%にも満たなかったが、米国政府による規制で35%まで引き上げることに成功している。たが、エヌビディアの価格攻勢、新製品投入により、シェアを落とすリスクがある。そこで、2026年1月には“昇騰920”を投入して対抗しようとしている。
もちろん、本土企業がBlackwell並みのAI半導体を作ることができるまでに技術レベルを上げたわけではない。また、推論トレーニングなどAI開発には、GPUで大量のデータを効率よく高速で並列処理する必要があるが、そのためのプログラミングモデルはエヌビディアが開発した“CUDA”が市場をほぼ独占しているような状態だ。中国のAI技術者も“CUDA”の開発環境に慣れ親しんでいる。そうした中で、“CUDA”にかわるプログラミングモデルを独自に作るには非常に大きな労力、コストがかかるだろう。