母親の認知症をきっかけに“便利屋さん”に
現在、50代半ばである“第二次ベビーブーム前夜”世代の親は概ね70~80代に集中する。Aさんの親も80代だ。Aさんは、「親の年齢と退職タイミングはよく考えたほうがいい」と、同世代に警鐘を鳴らす。
「以前から母の様子がおかしいとは聞いていたんですが、病院に連れて行ったところ、軽度の認知症だということが判明。さらに、家の中で転んで足の骨を折ってしまい、杖が必要な状態になってしまいました。実家には父もいますが、父は免許を返納してしまったばかりで、買い物や病院通いは一苦労。『◯日は空いてるか?』『ちょっとこっちに来てくれ』と、週に何度も連絡があり、その度に1時間半かけて実家に帰っています」
そのうち、別の方面からも声がかかるようになる。実家には未婚の妹が住んでおり、彼女にもいいように使われる羽目になったのだ。
「実家は駅から遠く、バスに20分以上乗りますが、そのバスが減便され、終バスが大幅に早まったんです。そのため、『お兄ちゃん、家にいる?』『駅まで迎えに来て』というLINEが頻繁に入ります。私としては、妹に親の面倒をみてもらっていたという引け目があるので、断るに断れません」
いっそ実家で暮らすことも考えたが、家庭のことを考えるとなかなかそうもいかない。最近ではすっかり“便利屋さん”のような生活になっているという。
「父はこれまで自分のことは自分で出来る人でしたが、頼める人がいると分かると、片っ端から何でも私に頼んでくるようになりました。『携帯電話の設定が分からない』『家庭菜園のナスを取ってほしい』『近所にショッピングモールが出来たから行ってみたい』『◯◯さんが亡くなったから葬儀場まで送り迎えしてほしい』など、オーダーは様々ですが、ちょっとでも渋ると『ヒマなんだろ?』と言われるばかり。返す言葉もないですし、これまでロクに親孝行をしてこなかったので、罪滅ぼしのつもりで実家に通っていますが、“こんなことならもう少し働いていれば良かった”と思う瞬間はあります」
Aさんの家には、“自分へのご褒美”で購入した映画鑑賞用のリクライニングソファーがあるが、「忙しくてビニールも剥がしていない」とか。実家の往復の電車賃もバカにならないため、定期の購入を真剣に検討しているそうだ。