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田代尚機のチャイナ・リサーチ

トランプ大統領が発表した「AI行動計画」の要点 内外に摩擦を招きながらもAI投資拡大は続く見通しで株式市場の支援材料に

AI行動計画に関する大統領令に署名したトランプ大統領(Getty Images)

AI行動計画に関する大統領令に署名したトランプ大統領(Getty Images)

 S&P500、NASDAQは7月に入る前の段階で過去最高値を更新、その後も強い上昇トレンドを保っている。構成銘柄にオールドエコノミーを多く含むNYダウだが、こちらも最高値更新一歩手前まで上昇している。

 4月2日のトランプ相互関税率発表、その後の米中報復関税の応酬などによって、グローバル経済の見通しは一旦、不透明となったが、前者は断続的に続く関税率引き下げによって、後者は5月12日、6月9~10日、7月28~29日に行われた米中通商協議によって、見通しが立つようになってきた。足元の米国消費者物価指数の上昇がやや懸念されるところではあるが、それでも実態経済には柔軟性があり、既に課せられた相互関税による悪影響は供給サイド、需要サイドでうまく吸収できているのではないかといった楽観的な見通しも根強い。こうした不確実性の後退、米国経済の底堅さなどが米国株の上昇トレンド形成に繋がっているといった見方がある。

 7月29日のNYダウ終値は、4月8日と比べ19%上昇しているのに対して、エヌビディアは82%、マイクロソフトは45%上昇している。構成銘柄ではないがメタプラットフォームズは37%、アルファベットは35%上昇している。いずれもAI革命を牽引する銘柄だ。株価指数の決定要因は、資金流動性による影響が大きく、資金があるから株を買うといった因果関係がある。ただ、それがすべてではなく、有望なセクター、銘柄があるから株式市場に資金が流入するといった因果関係も無視できない。

 米国株式市場の活況は、米国経済の底堅さというよりも、AI革命に対する大きな期待によって牽引されているのではないかと考えている。

トランプ大統領が発表した「AI行動計画」の要点

 トランプ大統領は7月23日、ワシントンで開かれたAI競争に勝利するといった活動において、正式にAI行動計画を発表した。この計画書は90項目を超える行政に対する建議など23ページにわたる詳細なもので、同じ日に発表された3つの大統領令、すなわち、米国製AI技術の輸出を促進するため政策、データセンター、インフラに関する連邦レベルの許認可を加速させるための政策、Woke(人種、性別、LGBTなどに関する偏見、差別といった社会的不平等に対する気付き)を意識したAIバイアスを排除するための政策に反映されている。

 要点を整理すると【1】大胆な規制緩和によるAI開発、実用化の加速、【2】AIインフラ建設拡大による計算力の向上、そのために必要となる電力供給などの増強、【3】米国技術に依存する国家グループ形成のため、依存しないグループ、競合・敵対するグループに対する半導体チップ輸出規制などの強化といった3点にまとめられよう。

 3つ目について少し説明を加えておくと、“外国直接製品規制”(直接製品とは米国原産の技術、ソフトウエアで直接的に生産された1次製品)によって、同盟国と歩調を合わせ、対中規制を強化しようとしている。“半導体チップ外交”を通じて親米国際グループの形成、米国技術の世界標準化を目指すと同時に、中国に対しては高性能チップに位置情報機能を加えることなどによって、厳格に中国本土への流入を抑え、性能を落とした製品を中国に販売することで米国の優位性を確保することなどを目指している。

 AIは現在、軍事、防衛システムの中核技術になりつつあるが、今後自律行動型兵器、サイバー防衛、情報分析などの優劣が国家安全保障能力の差に繋がりかねない。経済面では、AIの進化は人型ロボットの普及、シンギュラリティ到来により、世界を一変しかねない。米国がAI開発、実用化で他国に先を越されるということは、覇権争いの敗北を意味する。米国としては是が非でもこの競争に負けられないとの思いがトランプ政権内部に強く存在するのであろう。

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