かつて筆者が1ゲーム50円でプレイしていた『戦場の狼』
「Here comes a new challenger!」
というわけで、私は鷺沼のゲーセンに行けなくなったのですが、ゲーセンの持つ怪しい魅力は忘れがたい。1984年、東京都立川市に引っ越した後は再びゲーセンに通うようになりました。といっても、ダイエー系の小売店の中にある暗くない「ゲーム置き場」みたいなところです。それでも、また通報されたらかなわないので、わざわざ別の学区まで自転車で12分ぐらいかけて通っていました(だから何なのか、という話ですが、結果的に通報されませんでした)。
ここでプロレスのゲームやら、『SONSON』『戦場の狼』などをやったのでした。鷺沼では100円だったのですが、ここは50円でプレイできた! 鷺沼のゲームセンターと違って暗くない場所だったため、なんとなく健全なイメージがありましたね。
その後、私は親の仕事の都合でアメリカに引っ越すのですが、19歳だった頃の1992年、大学に入るタイミングで日本に帰ってきて再びゲーセンに通うようになります。薄暗い電子音バキバキのゲーセンです。そして、そこで大きな存在感を放っていたのが、1991年に登場して一斉を風靡した『ストリートファイターII』(通称・ストII)です。
ストIIは、対戦型ゲームで、一人でプレイをしていても、向かい側の筐体に別の客が入って来ると「Here comes a new challenger!」の文字が出て、生身の人間との対戦プレイが開始します。
コンピューター相手よりも圧倒的に興奮し、アドレナリンが出るわけですが、えげつないハメ技(一切反撃できない連続攻撃)を食らわせたり、バカにしたかのようにノーガードで攻撃させる、といった挑発行為もありました。
そうなると、3本勝負で負けた方はキレる。新聞沙汰にもなりましたが、ストIIをめぐり殴り合いのケンカに発展したケースもあったそうです。ご存じのとおり、ストIIはその後大人気シリーズとなり、今では家庭用ゲーム機でも遊べるようになりましたが、やはり当時の薄暗いゲーセンでの初対面の相手との対戦プレイの興奮は忘れられません。
そうしたゲーセンライフを過ごしてきただけに、今の健全なゲーセンの姿は新鮮に移ります。とはいってもあの怪しい空気感をもはや体験できないことに、若干の寂しさを覚えたりもするのです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。