また、詐欺であれば、それなりの知的能力が必要と思われるので該当しませんが、物事の是非の判断がつかない幼児などの責任無能力者の行為による損害なら、親権者や成年後見人などの監督する立場の人(監督義務者)が賠償責任を負うことになります。
ただし、使用者であれば、選任・監督に相当の注意をした場合、監督義務者なら、義務を怠らなかったときには責任を免れます。
この他、取引行為になりますが、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と取引をしたときは、他の一方が取引には関係していなくても、これによって生じた債務については連帯し、その責任を負うことが民法で定められています。
このように自分がしてもいない責任を取らされるのは、法律上に根拠が定められている場合に限ります。そして、親子関係や親族関係は、それだけでは責任を負わされる根拠とはされていません。
よって、心配は無用です。もっとも刑事事件で寛大な処分を求めるのに親兄弟が賠償を負担することは珍しくありませんが、任意であり、法律上の義務ではありません。しかし、詐欺犯が死亡したときは、相続人は他人ですが、賠償債務も相続するため、相続放棄の検討が必要で、相続人になる可能性のある親族は、注意すべきです。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2025年8月15・22日号