公立病院・泰安市センター病院ではDeepSeekを使って薬学に関するデータベースを整備し、AI薬剤師“岳岳”を作成、中国伝統薬の処方のスピードアップを実現している。開勒股フェンの傘下企業では人手の足りない小規模医院(三甲医院)向けに、DeepSeek、Qwen(アリババ・グループ)を利用して、独自の診断補助システムを開発している。
医薬品の開発、生産を行う叡智医薬では、DeepSeekを使って、実験データの分析、研究報告書の自動作成などを行っており、医薬品の物流自動化、情報化、スマート化設備製造や、それらのソリューションを提供する健鹿信息では、薬品の識別精度をあげ、処方箋作成支援システムに利用している。
米国系AIが中国国内で普及する可能性は極めて低い
拡散先は医療機関に限らない。オープンソース、低コストのDeepSeekが、各社で開発されているAIを補強するような形で、社会全体に浸透している。本土株式市場では8月6日現在、上海、深セン、北京市場合計で5420程度(B株は除く)の上場企業があるが、業界トップの株式関連アプリ“同花順”がDeepSeek関連と分類する銘柄は721社に及ぶ。
ひたすら巨額のAI設備投資を重ねる米国の大手ハイテク企業だが、投資資金を回収し、利益を上げるにはどうしたらよいのだろうか。彼らのAIが中国国内で売れる可能性は極めて低い。彼らに言わせれば、「DeepSeekが高性能のLLMを安売りし、市場を荒らしている」としか見えないだろうが、DeepSeek搭載の数々の中国系AIが“手の届く高性能AI”として、ASEANをはじめとした一帯一路関連国に拡散し、米国よりも先に国際市場を獲得してしまえば、後からシェアを奪い返すのは難しい。
そもそも、「GPUを積めば積むほど性能が上がる」という法則は永遠には成り立たない可能性が高い。高品質なテキストデータは2026~2028年に枯渇するといった予想もあり、その後は性能向上スピードが落ちるとみられる。一方、分散並列技術、モデル軽量化、ハードウエアの最適化などによりAI性能の向上が可能であることをDeepSeekが実証している。
米国勢としては、先にシンギュラリティ通過を成し遂げればそれが決定的な技術力の差となることを信じ、もう一度性能において中国勢を大きく引き離しにかかるしかない。
規模依存戦略を続ける米国勢、効率最適化戦略を採る中国勢。それぞれ違うルートでAI革命を進める米中だが、過激な競争こそが技術進歩を加速させると考えるのであれば、世界にとって、これは良いことなのかもしれない。
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文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。