中国の医療分野でDeepSeekの活用が進んでいる(Getty Images)
中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。中国ベンチャー企業・深度求索(DeepSeek)が発表した大規模言語AIモデル(LLM)である「DeepSeek-R1」は、いま中国国内でどのように活用されているのか──。田代氏がレポートする。
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今年1月20日に公開された「DeepSeek_R1」だが、米系LLMと同等かそれ以上の性能で、オープンソースでの公開、格安の利用料とあって、瞬く間に中国内の各産業、企業に拡散、浸透していった。
医療分野は特にAIとの相性が良い。医療サービスの質は、疾病とその治療方法、治療薬などに関する情報量によるところが大きく、AIはそれらの情報を体系立てて正確に記憶、整理し、素早くアウトプットできるからだ。加えて、CT、MRIの画像解析、血液検査、DNA検査などの分析、手術用ロボットのスマート化においても、AIは大きな貢献を果たしている。最終的にはAIが人類の叡智を超えて進化し、あらゆる病気を治してしまう段階まで進むだろうとまで期待する有識者もいる。
DeepSeek導入でレベルアップしたAI医療システム
生保、損保業界でいずれも本土第2位の事業規模、銀行、証券、資産運用などの金融サービスでも準大手クラスの規模を持つ中国平安保険集団(中国平安グループ)は、関連会社である平安健康医療科技(平安好医生)を通じ医療サービス事業を手掛けている。
平安好医生は中国平安グループの保険契約者、顧客企業向けに加え、独自に開拓した企業、個人の顧客に対して、オンライン、オフラインで総合医療サービスを展開しているが、DeepSeekを導入、AI医療システムを全面的にレベルアップした。
3万7000件の疾病、42万語の技術用語などを収納する5つの医療データ群(標準疾病、処方医療、医療製品、医療資源、個人健康データ)を整備し、医者による3000万ファイルの電子カルテ、200万件の重要医学文献、50万時間に及ぶ手術映像などのデータ、14億4000万件のオンラインによる問診データを融合させ、こうして集められた教材を使ってDeepSeekに推論トレーニングをさせる。出来上がった医療診断補助システムと医師の診断とを組み合わせることで医療サービスの質を高めることに成功している。
同社では、AIを使った診断システムを従来から使用してきたが、会社側の説明によればDeepSeek導入によるレベルアップによって臨床における重篤患者のリスク評価正解率を42%引き上げると同時に、トレーニングコストを引き下げることに成功したそうだ。
オンライン顧客向けには婦人科、小児科をはじめ各科の専門医アバターを作成し、1日24時間体制で音声、図、映像などを使って3分以内にアドバイスを行うシステムや、オンラインでの初診から、実際の医療機関につなぐまでのシステム、慢性病患者用として疾病リスク評価から運動方法の紹介まで一貫して行う個別管理システムの作成にも役立てている。