閉じる ×
閉じるボタン
有料会員限定機能の「クリップ」で
お気に入りの記事を保存できます。
クリップした記事は「マイページ」に
一覧で表示されます。
マネーポストWEBプレミアムに
ご登録済みの方はこちら
小学館IDをお持ちでない方はこちら
ビジネス
職業としてのヤクザ

暴力団による組織犯罪の背景にある「負のサービス産業」としての需要【溝口敦氏×鈴木智彦氏対談】

ジャーナリストの溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏

ジャーナリストの溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏

 暴力団が絡んだ抗争事件や経済事件などはよく報じられるが、そもそも彼らがどのように稼いで生活しているのかという情報はあまりない。長年、暴力団取材を続けてきたノンフィクション作家の溝口敦氏、フリーライターの鈴木智彦氏が対談。「なぜ暴力団に需要があるのか」というテーマで語り合った。(溝口敦/鈴木智彦・著『職業としてのヤクザ』より一部抜粋・再構成。肩書きは2021年4月の出版当時のもの)

負のサービス産業

鈴木:警察が分類するところのいわゆる伝統的資金源……博奕、覚醒剤、売春、みかじめ料などですが、これらはすべて、違法でありながら需要があるという共通点がある。組織犯罪は社会からの注文があってはじめて成立するんです。麻薬や覚醒剤が裏で売買され、巨額の利益を手にできるのは、それを欲しがる市民の要望、需要があるからです。

溝口:だから、そういう意味で、暴力団は負のサービス産業なんです。

鈴木:まさにそうですね。犯罪とはいっても、商行為である以上、信用第一です。犯罪組織は秘密を守るために裏切り者を殺すことも厭わず、一般の商行為より厳格に信用を守ろうとします。何せ警察にバレたら客もヤクザもおしまいです。ここなら秘密を厳守してくれるという信頼感が欠かせません。

溝口:禁酒法時代のアル・カポネなんて、まさしく禁止されているアルコールを提供した。これは、その当時の法律では違法なんだけども、違法を押して提供すると。それは危険を冒す。その分、高くなる。しかしながら、需要がものすごくある。だから、儲かる。おおよそのシノギはそういう仕組みになってるわけです。

 覚醒剤だって、提供すれば逮捕されるリスクを負う。だけども、リスクを背負って提供すれば儲かるという、そういうことです。

鈴木:暴力団というのは、どうしてもテレビや漫画の影響で、映画『マッドマックス』みたいに、暴力を使って物や金銭を奪い取る無秩序を想像するかもしれないけれども、そうではないんです。しっかりと市場があって、その需要に応えているから、存在し得るわけです。つまり、負のサービスを求める人たちにとっての“商店”として機能している。

溝口:たとえばみかじめ料にしたって、店のほうから出す場合もあるわけです。繁華街は危険なことも多いので、親分さんに守っていただいて、今月も無事に過ごせましたというママさんもいるわけで、警備料と思っているということ。

鈴木:必要経費であるという考え方ですよね。

溝口:用心棒代もみかじめ料に似たものですが、実際に夜の店でお客さんが暴れたって、警察に電話してもなかなか来てくれません。警察には民事不介入という原則があって、明らかな暴力行為でもない限りなかなか介入できない。そもそも警察からしたらそんな面倒に巻き込まれたくない。そういう中で、月々、そういう決まったものを払っていれば、いざというときに駆けつけてくれる。

 今は違うけれど、昔はヤクザ事務所っていうのは二十四時間営業だったんですよ。電話一本でどんな遅くても駆けつけてくれる。そこにみかじめ料を払う価値もあったわけです。

鈴木:時代が荒っぽかったからトラブルがいっぱいあったんですよね、昔は。酔っ払いもたちが悪いし、すぐに暴れて喧嘩になる。ヤクザが乗り込んでくると、これはもうヤクザに頼むのが早い。そういうときのために、暴力団はプラプラしている遊撃隊をわざと飼っているわけです。今は携帯電話が普及したから、事務所詰めは二十四時間じゃなくなりつつあるけど、それでも大きな組織には必ず誰かが当番で入っています。

【プロフィール】
溝口敦(みぞぐち・あつし)/1942年東京都生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』など。

鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。日本大学藝術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めたのち、フリーに。著書に『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)などがある。8月22日19時から、マネーポストWEB「プレミアム会員限定」ライブ動画配信『《司忍組長の内部資料も公開》ヤクザとマネー~最強組織・山口組のビジネスモデル~』に登場予定。

関連キーワード

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。