日本酒の「酒蔵」が中国企業に渡ることへの懸念点とは(写真:イメージマート)
中国では日本酒ブームが続いているというが、その裏で日本酒の酒蔵が相次いで中国資本に買収されている。その実態をジャーナリストの西谷格氏がレポートする。【前後編の前編】
日本酒ブームが製造元の「酒蔵」買収に及ぶ
この10年ほど、中国では空前の日本酒ブームが続いている。
筆者も中国人の知人から「『十四代 大吟醸』を上海に送ってほしい。送料込みでいくらになるか計算してくれ」と相談されたことがある。中国では日本酒が高値で取引されており、転売すればビジネスとしてのうま味が大きいというのだ。
近年はそのブームに拍車がかかり、製造元の「酒蔵」にまで中国資本の手が伸びているという。
なかでも、経営難に陥った酒蔵には何社もの中国企業から声がかかっているようだ。実際、中国のSNS「小紅書」を開くと日本各地の酒蔵が売りに出されており、「詳しい資料をください」などのやり取りが見て取れた。
具体例を見てみよう。佐賀県の「松尾酒造場」は創業150年を超える老舗だが、2017年に酒造りを中断していた。事業の存続が危ぶまれていたが、2019年に上海出身の起業家である周春宝氏が「多くの中国人に、日本酒を通じて日本文化を体験してもらいたい」と酒蔵を買収した。
周氏は経営の立て直しを図り、2022年には銘酒「宮の松」が地元の酒類鑑評会で大賞を受賞。酒を造った杜氏はインタビューで「周社長が地域の『宝』である、この蔵を救ってくれた」と喜んだ。2024年には中国大手レストランチェーン「容大餐飲管理(天津)」が酒蔵を訪れ、輸出提携を協議。経営は再び軌道に乗り始め、チャイナマネーのおかげで日本の酒蔵が息を吹き返したのである。
また2021年には、福井県で「吉田酒造」と香港の「シンフォニー・ホールディングス」が共同出資し、合弁企業を設立。輸出体制を強化し、アジア市場での販路拡大を目指している。