佐賀県唐津市の高島にある「宝当神社」
宝くじファンの中には、ゲンを担ぐ人も多いが、それを地方活性化につなげた事例がある。今では“宝くじが当たる島”として知られる、佐賀県唐津市の島「高島」だ。30年以上前から始まった高島の“島おこし”の経緯について、唐津市在住のネットニュース編集者・中川淳一郎氏がレポートする。
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高島は唐津城のたもと「宝当桟橋」から定期船で約10分、片道220円で到着する。元々漁業が盛んな島で、周囲は3.2km、2024年の発表では112世帯191人が住んでいる。高島が「宝くじの島」として有名になるきっかけは、33年前までさかのぼる。そのキーマンである、同地で宝くじや各種土産物を販売する「宝当乃館」社長の野崎隆文さん(62)に話を聞いた。
「宝当袋」を考案した宝当乃館・社長の野崎隆文さん
「平成4年(1992年)当時、『ふるさと創生』などの動きもあったため、日本各地で村おこし、町おこし、島おこしは盛んになっていたわけですね。そんな時代ですから、高島でも『島おこしをせないかんな』という問題意識がありました。
元々この島は水産業がメインで、私も若い頃は漁業をしていました。そんな時、ふと島にある『宝当神社(ほうとうじんじゃ)』(鳥居の表記は『寶當神社』)の漢字が『宝が当たる』と読めることに気付き、宝くじが当たるご利益を持つ神社があるよ、ということで、参拝客を増やせないかと思ったのです」
宝当神社の由来は、1574年、野崎隠岐守綱吉が海を荒らす海賊を撃破したということで、綱吉の墓を島の守り神として祀ったことにある。ちなみに高島の島民の90%が野崎姓だという。
ふるさと創生の流れで浮かんだこのアイディアは、当時、島が直面していた課題を解決する糸口にもつながるものだった。
島に渡るには唐津城の下の船着き場から定期船に乗る必要がある。だが当時、海や汽水域の松浦川の底に泥が溜まり、巡航の妨げとなっていたのだ。となると、浚渫工事をしなければならないが、高島渡航へのニーズが増えないと、行政は工事のために予算を割いてくれないのが実情だった。野崎さんが続ける。
「島民にとって定期船はライフラインでしたが、船着き場の立地が泥により不安定という問題がありました。行政に対応してもらうには、定期船の利用客を増やす必要があったのです。そこに『宝当神社に参拝すれば宝くじが当たる』という島おこしによる観光誘致を結びつけようと考えたわけです。
もちろん宝当神社に参拝し、ウチで宝くじを買えば宝くじが当たるということは確約できません。でも、宝くじファンの中には『縁起物』『ゲン担ぎ』が好きな人も多いので、宝当神社の存在を喜んでくれるんじゃないか、と思いました。これで観光客が増えれば、浚渫工事も実現に近づくので一石二鳥と考えたのです」