管理職ともなれば任される仕事も大きなものになってくるが…(写真:イメージマート)
昨今、「管理職になりたくない」と考える会社員が増えている。責任が重くなり、仕事量も増えることから、報酬と待遇が見合わないと感じる人もいるようだ。また、仕事を最優先するのではなく、プライベートを大切にしたいという考えから、管理職を避けたがる人もいるだろう。そうしたなか、管理職になった後で自ら降格を申し出る人も出てきているようだ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏がレポートする。
現場での業務成果が認められて30代で課長に
1970~1980年代の漫画では、家に帰ってきた父親が「課長になった」と喜び、家族皆で祝うシーンも見られた。それだけ出世して管理職になることは、サラリーマンにとってひとつのゴールかつ、めでたいことだった。ところが、昨今は必ずしもそうではないようだ。私が話を聞いた、40代男性・A氏のケースをもとに考えてみよう。
A氏は建材関連メーカーの営業担当だが、新入社員の頃から営業成績は非常に良かった。資料作りも丁寧かつ迅速だったため、将来を嘱望されて30代後半で管理職になった。部下の中には40代後半の人もいた。しかし、A氏は管理職になって1ヶ月で「自分は管理職は向いていない」と考えるようになった。
というのも、自分はあくまでも現場のプレーヤーとしての仕事が得意で、他のメンバーを指揮し、命令し、鼓舞し、動かし、時にはホメたりダメ出しをすることは不得手だったのだ。
「上司から『見積もり作っておいて』『○○社へのプレゼン用資料作っておいて』『ちょっと××社の新担当者と会ってきてくれないかな』といった仕事を振られ、それをひとつずつこなしていたら、それなりに優秀な現場人だと思ってもらえたんですよ。それがまぁ、自分で言うのもなんですが、30代管理職(課長)に繋がった理由だと思います」
A氏が管理職に就いて最初の勤務先は、それまで慣れ親しんだ東京本社ではなく、関西支社。最初の段階で「東京からなんか新しい若造管理職が来たぞ」「お手並み拝見だな」といった目で見られていたようで、部下に仕事を振ろうとしたり、部署の会議を開催しようとすると、「今忙しいんです」と言われることもしばしばあったという。
確かに部下は必死にPCに向かっていたり電話はしているし、頻繁に営業先にも行っている。管理職の場合、社内の他部署とも密接にコミュニケーションをとったうえで、新商品の営業やパンフレットを作るような仕事をチームで進めることが求められる。管理職ともなれば、一人でできる仕事の範疇を超えた大きな仕事を任されるわけだが、A氏はとにかく人に仕事を振ることができなかった。
結局、他部署の現場の若手との折衝もA氏が行う。そのうえで、本来の人材管理業務もやらなくてはならないため、夜遅くまで会社にいることとなる。部下の人事考査の面談や、メンタルケアなども管理職の仕事であり、結果として膨大な量の仕事を抱えることになった。一方で、最初からどこか挑発的だった新部署の部下たちは、A氏が苦労していることを見て見ぬフリをしているようにも感じられた。