晴海フラッグを巡回していた「白バス」を調べる警察官たち(筆者提供)
移動人口23億人以上とされる中国の大型連休「国慶節」。10月1日からスタートした8連休で、人気の渡航先トップは日本だ。その旺盛なインバウンド消費が注目された一方、押し寄せる中国人観光客に警戒心を強めていたのが、東京五輪の選手村を改修したマンション群「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」の住人たちだ。何が起きているのか。ジャーナリスト・赤石晋一郎氏がレポートする。
「1円も取ってないから!」
「国慶節」初日の10月1日、夜7時すぎ──。
「アンケート? なんで書くの!」
東京湾岸の真新しく整備されたエリアで、中国語訛りの白タク運転手と、腕章をまいた一団が騒然とした空気になっていた。前日にも、警察官にこう噛みつく中国人女性の姿が目撃されている。
「友達! 1円も取ってないから! 無料! もう飛行機の時間あるから無理!」
女性は違法民泊のアテンドを疑われ職務質問を受けたのだ。その横ではハイブランドのバッグを抱えた観光客が困惑した表情を浮かべていた──。
ここ数日、晴海フラッグでは路上で怒声が飛び交う光景が激増している。腕章姿の一団は違法民泊を撃退するために結成された晴海フラッグ自警団である。自警団に参加した住人A氏が語る。
「国慶節が始まり、晴海フラッグには多くの中国人観光客が押し寄せる。警察ではないのでアンケートという形で違法行為であることを伝える活動しかできませんが、状況が悪化の一途を辿るなか、自分たちの手で生活環境を守るしかないのです」
4か月前、筆者は〈晴海チャイナタウン 旧五輪選手村が中国人に占領されていた〉(本誌6月6・13日号)と題した記事で、晴海フラッグに蔓延する「違法民泊」や「違法白タク(国の許可を得ていない有償タクシー)」の実態をレポートした。月島警察署も調査に乗り出した問題だが、その後も解決の糸口は見えない。
晴海フラッグは2020年東京オリンピック(開催は2021年)選手村跡地における東京都の一大プロジェクトである。都より民間企業に払い下げられた土地に建つマンション群は、3つの分譲エリアと1つの賃貸エリアで構成される。分譲エリアのうち、パークビレッジを三井不動産、サンビレッジを三菱地所、シービレッジを野村不動産が開発・販売している。
9月にはT棟(旧『HARUMI FLAG SKY DUO』・三井不動産と三菱地所が販売)という2棟のタワーマンションが竣工、入居が開始された。予測人口1万2000人の巨大マンションエリアとなった。住人B氏が語る。
「東京湾を一望できて東京タワーも見える眺望が売りのT棟ができて、さらに中国人観光客の姿が目立つようになりました。この夏は白タクだけでなく、晴海フラッグを巡回し停留ポイントごとに観光客を降ろしていく白バスまで登場した」