デジタル化と人の技の融合こそが、持続可能なインフラ維持管理の鍵を握る
日本全国に張り巡らされた地球12周分にも及ぶ下水道網の点検を限られた人員で賄うのは不可能に近い。そうしたなかで点検は「人中心」から「機械中心」になりつつある。近年、ドローンやAIが精度と効率を高めながら人手不足の課題にも対応するなど維持管理は新たな段階を迎えている。
かつての“力勝負”の方法ではなく、今日のインフラ問題を技術と知恵で支える現場の実態を、水ジャーナリスト・橋本淳司氏の著書『あなたの街の上下水道が危ない!』より一部を抜粋して再構成。【全3回の第2回】
新しい維持管理の形への転換
全国に張り巡らされた下水道管の総延長は、およそ49万キロメートル──地球12周分に相当します。これほどの長さのインフラを、限られた人手と予算で定期的に点検・管理するのは、現実的には不可能に近いのが実情です。とくに小規模自治体では、管路の劣化に気付いていても補修が追いつかず、漏水や破損、さらには道路の陥没といった事故を未然に防げないケースが後を絶ちません。
従来の点検は、マンホールからカメラを挿入し映像で確認したり、超音波を使って管の厚さを測定したりといった、時間と労力を要する手法が主流でした。人力中心の方法では、頻繁な点検が難しく、老朽化の兆候を見落とすリスクがつきまといます。
こうした課題を背景に、近年では点検の効率と精度を高めるために、さまざまな技術の導入が進められています。
重要なのは、これらの技術が「人手で調べる」という従来のやり方を根本から見直す契機となっている点です。異常の検出は機械が担い、人は判断と対処に集中する──そうした新しい維持管理の形へと転換が進んでいるのです。人材不足と財政制約の中でもインフラを守り抜くために、こうした技術は今後ますます欠かせない存在となっていくでしょう。
