無償化で私立高校の人気が高まる理由
「主体性」が外されても、評定がとりやすい高校や、評定を“盛る”高校は今後も出てくるだろう。また、高校授業料無償化という問題がある。
東京都の高校授業料無償化は2024年度から所得制限がなくなり、私立高校も実質無償となった。その結果、都立高校の志願者が約3000人減少した。学力中堅層が私立高校の単願推薦入試を選ぶようになったからだ。
そうなると、都立中堅高校の入試難易度が激しく変化し、生徒の学力レベルも変わっていく。結果として「この高校でこの評定平均値ならこの学力」という判断が難しくなる。今後、全国で高校無償化が拡大すれば、どの自治体でも同じ状況になるだろう。
そうなってくると、真面目に評定をつける私立高校の価値は上がっていく。「大学に推薦で進学したい」と考える中学3年生は、私立高校への進学を選択するケースが増えるはずだ。大学側から「この高校の評定平均値は信頼性が高い」と評価されれば、指定校推薦の枠が増え、総合型選抜でも有利になるからである。
ただ、高校無償化といっても、実際には上限48万円程度が助成されるにとどまる。私立高校に通えば授業料以外にも諸経費がかかり、年間100万円ほど必要だ。助成があっても家庭の負担は年間50万円、3年間で150万円程度となる。物価高で実質賃金が下がる中、この150万円の負担に躊躇する家庭も増えてくるだろう。
すると、推薦で大学に進学したい学力中堅層の生徒の間で経済格差問題が顕在化する。推薦入試が経済的に余裕のある家庭の子どもに有利な部分があるとしたら、それは留学や海外ボランティアなどの活動実績が作れるからではない。推薦に有利な私立高校へ進学できるかどうかという「3年間で150万円」の差なのである。
こうした格差をどう解消するかも、今後の検討課題となるだろう。
■第1回記事から読む:大学入試がどんどん推薦入試にシフトしていく中で「ボーダーフリー状態」を避けるために大学側が重要視する指標
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも日々更新中。