終わりなき椅子取りゲーム
ここで、「DOWNTOWN+」に話を戻したい。一部からは様々な意見が聞こえてくる中で、ダウンタウンという存在が、テレビという旧来のプラットフォームからネット配信の最前線へ飛び出し、月額1100円の価値を50万人の一般消費者に認めさせた事実を、私は手放しに称賛したい。
この成功は、サブスク市場における「勝ち筋」の一つを明確に示している。有料動画配信市場の勝利戦略を分析したあるレポートが指摘するように、市場が「財布シェアの奪い合い」 である以上、「オリジナルコンテンツでの差別化」 こそが最強の武器となる。ダウンタウンという唯一無二のオリジナルコンテンツが、消費者の「入れ替え」の動機として、既存の巨人を上回ったのだ。
「DOWNTOWN+」が獲得した50万人の「1100円」は、どこから来たのか。それは天から降ってきたわけではない。その予算は、恐らく「Netflix」や他の動画サービス、あるいは他のエンタメ支出から削られて捻出されたものだ。博報堂DYの調査が示すように「支出する人数」 が限られる市場において、この奪い合いの構造は今後ますます続くだろう。サブスクリプションとは、消費者の限られた予算と時間を奪い合う、終わりなき椅子取りゲームなのである。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。