翻訳アプリがあれば、意思疎通もなんとかなる時代(イメージ)
AIの進化が目覚ましいなか、特定の職業の人間にとってAIは仕事を奪いかねない存在になりつつある。そのひとつが「翻訳者」だ。現在進行系でその脅威に晒されている、翻訳会社のベテラン社員が、匿名を条件にそのリアルな実態を明かしてくれた――。
早くて正確、なおかつタダな「AI翻訳」
Kさん(50代/男性)が勤務する翻訳会社が扱うのは、学術論文、アプリ、マニュアル、契約書、カタログ、資料、申請書類など、ビジネス関連の堅い文章や文献がメイン。大手企業や官公庁とも取引があり業界内では老舗だが、Kさんは「先行きは明るくない」と漏らす。
「ネット上にはかなり前から自動翻訳サービスがあり脅威でしたが、ここ2~3年でAI翻訳の精度は一気に高まりました。スピードで人間と勝負にならないのは当然として、ジャンルによっては正確性もAIの方が上。もともと学術論文などは専門用語が多いだけで、翻訳作業としては比較的イージーなので、自動翻訳が有効でしたが、最近のAIは他の分野でも人間を軽く上回ってきます」(Kさん。以下同)
早くて正確、なおかつタダなら、わざわざお金と時間のかかる人間に頼む必要はない。さらに、時代の流れも翻訳会社には逆風だという。
「近年はコンプライアンス的な問題も浮上しています。外部の翻訳会社を使えばどうしても情報流出、情報漏洩のリスクがあるので、翻訳作業をアウトソーシングしないクライアントが増えました。実際にはAI翻訳にも情報流出リスクはあるのですが、AI翻訳はタダの上に早い。コストカットの魅力には抗えないのでしょう。
また、翻訳ツールが進化したことで、翻訳という仕事が軽く見られるようになったのか、近年は値下げ圧をひしひしと感じています」
