いつまでAI翻訳と戦えるか
Kさん自身は、キャリアを重ねるなかで自らが翻訳作業に携わる機会は減り、もっぱら他の翻訳者に仕事を振ったり、営業活動に回ったりといった業務に従事している。業界歴30年近くのKさんは、翻訳という仕事の未来をどう見据えているのか。
「現状、AI翻訳は“完璧”ではなく、高いスキルを持った翻訳者の価値はまだあります。たとえば海外のポップスやロックの記事やインタビューの翻訳は、辞書には載らないようなスラング、業界用語、専門用語が多く、スラングは流行り廃りも激しい。さらに海外のミュージシャンや音楽評論家は隠喩やジョーク、ダブルミーニングを使うことが多く、ジャンルに対する深い知識も要求されるので、まだまだAI翻訳と戦えます。ただ、それがいつまでもつか……。
翻訳者に求められる能力は、語学力が高く、そのジャンルに対する深い知見があり、外国語を正しい日本語にする文章力があること。ただ、リアルな話をすれば、翻訳者の大半はAIを使っており、仕事内容が“AIが訳した文章を読んで、おかしな部分を直す”あるいは“ニュアンスを整える”といった作業になりつつあります。高いスキルを持った人は十分ニーズがあると思いますが、今後仕事が減ることはあっても増えることは考えにくいです」
AIの台頭により、語学スキルのあり方や仕事そのものが大きく変わっている。