*13:05JST いちご Research Memo(5):トレードピアお台場の稼働率が95%に復活。ホテル分野は地方都市物件に投資拡大
■中長期の成長戦略・トピックス
1. 心築分野:同社最大規模オフィス物件のトレードピアお台場がコミュニティ創出により稼働率向上
いちご<2337>最大の所有オフィス物件であるトレードピアお台場の稼働率が順調に上昇している。この物件は同社が2016年に取得しており、2021年2月期には稼働率が97%まで高まった。その後、コロナ禍を契機とした働き方改革による退去やオリンピック関連事業者の退去により、2022年2月期の稼働率は一時50%水準まで低下した。同社では、「Tokyo Bay Village」をコンセプトに、テナントニーズ対応及びテナント同士をつなぐ場を創出する取り組みを開始した。例として、Bay Village Cafe開設(2024年2月期)、入居テナントおよび近隣テナントのコミュニティ創出を目的としたMeet The Neighbors!(防災救護訓練、AED講習会、交流会を毎年同時開催)、エントランスのBay Village Gallery開設(2026年2月期)、敷地内農園での農作業を通じた、テナント同士のつながり創出を目的としたBay Village Farm by grow(2026年2月期)などが挙げられる。これらの重層的取り組みにより満足度とエンゲージメントが向上し、新規成約・増床により稼働率は2025年10月現在95%まで向上している。来期には売却機会の本格的な検討が開始される見込みである。
また、オフィス分野全体では、セットアップオフィスの導入によりNOIの向上が実現できており、オフィス賃料収入は前年同期比で19.4%伸びている。
2. ホテル分野:地方都市物件に投資拡大。事業の多角化を図る
同社のアセットタイプ別残高比率ではホテルが26%を占めており、オフィスに次いで2番目に構成比が大きい。取得の意欲も旺盛であり、2026年2月期中間期末時点での契約済684億円のうち215億円(31%相当)はホテル物件である。ホテルへの投資を増やす要因の1つは外部環境である。東京圏など一部地域でのインバウンドは、空港発着枠の上限に伴い飽和傾向にあるものの、首都圏以外の都市での成長余地は依然として大きい。進行期のホテル取得においても、奈良市1件、大阪市2件(うち1件契約済引き渡し前)と首都圏以外である。内部環境においては、不動産再生技術による賃貸・売却収入がベースとなっているものの、自社ブランドホテルの展開(THE KNOT4棟、いちごホテル運用物件含む)、ワンファイブホテルズによるホテル運営事業(18ホテル、2,467室)、DXツールの外販まで、多面的に新しい価値を創造する事業を展開する。来期には、THE KNOTへリブランド中の2物件がリオープンする予定であり、ホテル収益のさらなる拡大が見込まれる。
■株主還元策
2026年2月期は年11.50円配当予想
同社は株主還元策として配当を実施している。配当の基本方針としては、日本で導入例が少なかった「累進的配当政策」を以前から導入している。原則として「減配なし、配当維持もしくは増配のみ」を明確な方針とし、企業の持続的な価値向上と長期的な株主還元にコミットするものだ。過去13期連続で累進的配当政策を維持しており、安定性に定評がある。特に、コロナ禍後の2023年2月期からは4年連続増配予想である。さらに、同社では利益変動に左右されない安定配当を実現できる株主資本配当率(DOE)を、早期から経営目標としており、2025年2月期にはDOEの目安を3%以上から4%以上に引き上げた。2026年2月期の配当金は、年間11.50円(前期比1.00円増配)、配当性向30.2%を予想する。
同社は、長期VISION「いちご2030」において「機動的な自社株買い」を掲げ、株主価値の向上策への積極的姿勢を打ち出している。この方針に沿って、2018年2月期から2026年2月期まで9期連続で実施しており、合計333億円、毎年平均約37億円の自社株買いを実施している。進行期は既に50億円の自社株取得(2026年2月期中間期末まで)を完了しており、11月6日には、新たに50億円を上限とする自己株式取得を発表している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)
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