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【リスクをすべて強みに転換】映画『国宝』規格外の成功の裏にある、これまでの日本映画界の“悪しき常識”への反逆 最高の人材を機能させるために必要だった「12億円の製作費」

映画『国宝』はこれまでの日本映画と何が違ったのか(公式サイトより)

映画『国宝』はこれまでの日本映画と何が違ったのか(公式サイトより)

 映画『国宝』が記録的なヒットとなっている。今までの日本映画と何が違うのか。その規格外の成功の背景について、イトモス研究所所長・小倉健一氏が解き明かす。

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 2025年11月、映画『国宝』の興行収入が173.7億円に達したという報道が駆け巡った。これは単なる数字の更新ではない。2003年に『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』が打ち立てた記録を塗り替えた事実は、日本映画史における地殻変動を意味する。長きにわたり停滞していた邦画実写の王座が、ついに交代したのだ。

 私も、2回観てしまった。ごく個人的、かつ怠惰な理由によって、1回目鑑賞で冒頭を観ることができなかったせいもあるのだが、残りの部分の面白さもあって、再チャレンジすることになった。175分にも及ぶ上映時間。終盤、主要人物の一人が亡くなってしまった後のシーンは、伏線を回収するだけのように感じて、削ってもよいのではないかとも考えたが、劇評を観ると「丁寧に伏線を回収するのがいい」などとあった。たしかに歌舞伎を観に行けば4時間ぐらいかかるし、展開も映画よりもダラダラしている。歌舞伎観劇のエッセンスがギュッと詰まった映画だと思えば、むしろ短いと捉えることもできるのかもしれない。いずれにせよ、面白い映画だった。

 この大ヒットの背景には、これまでの日本映画界を覆っていた「悪しき常識」への反逆がある。長年、邦画の実写作品といえば、製作費は数億円程度に抑えられ、テレビドラマの延長線上で作られることが常態化していた。失敗を恐れるあまり、小手先のマーケティングと既存の知名度にすがり、観客を侮ったような安易な作品が量産されてきたのだ。テレビ局が主導し、公開に合わせてバラエティ番組で宣伝を行い、リスクを極限まで回避する。そうした「事なかれ主義」こそが、邦画の質を低下させ、観客の信頼を損なってきた元凶である。創造性を去勢された臆病な企画者たちは、この『国宝』の成功を前に、自らの不明を恥じるべきである。

 映画『国宝』は、そうした業界の淀んだ空気を、ぶっ壊した。製作費は12億円という、邦画実写としては異例の巨額が投じられた。上映時間は3時間に迫る175分。しかも、製作委員会にテレビ局は名を連ねていない。業界人が「売れない条件」として忌避してきた要素ばかりを抱えながら、本作は勝利した。なぜか。それは、製作陣が「質」という、映画にとって最も根源的で、「見える化」しにくい価値に賭けたからに他ならない。

次のページ:映画における「カネと質」の関係性

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