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【リスクをすべて強みに転換】映画『国宝』規格外の成功の裏にある、これまでの日本映画界の“悪しき常識”への反逆 最高の人材を機能させるために必要だった「12億円の製作費」

映画における「カネと質」の関係性

 この「賭け」が単なる無謀な博打ではなかったことは、ある学術的な知見によっても裏付けられる。映画製作における資金と人材の関係性について、興味深い研究が存在する。論文『映画のプリプロダクションにおける監督選定の実証研究:両側マッチングアプローチ』(リユアン・ウェイ、ユーピン・ヤン著、2021年)には、次のような記述がある。

「シミュレーションの結果は次のことを示した。a)不適切な監督とマッチングした場合の財政的影響は甚大になり得る。b)製作予算とプロデューサーの特性の間接的効果は、映画の興行収入に対して相互作用的に影響を与える。(中略)製作予算は、より優れた監督とのマッチングを通じて、興行収入に対して重大な間接的金銭的意味を持つ。そのような間接的効果の大きさは、プロデューサーの特性によって異なる」

 つまり、潤沢な予算は単に豪華なセットを作るためだけにあるのではない。それは、優れた才能を引き寄せ、最適な「マッチング」を実現するための強力な磁力となるのである。本作において、ミリアゴンスタジオの村田千恵子プロデューサーらが企画を持ち込み、李相日氏という稀代の監督を招聘できたのも、世界市場を見据えた規模感と覚悟があったからこそだろう。12億円という製作費は、浪費ではなく、最高の人材を機能させるための必須条件だったのである。

 この「カネと質」の関係性について、配給を担った東宝の市川南取締役は、当初抱いていた懸念を、「プレジデントオンライン」の記事(*9月6日付《映画『国宝』は「失敗のリスクが高すぎる」と製作幹事を見送った…東宝プロデューサーが読めなかったメガヒット》)の中で率直に語っている。

 同記事で市川氏は、本作の映画化にはビジネスとして高いリスクがあったと振り返る。それは「古典芸能というテーマの特殊性」「歌舞伎の再現の難しさ」「想定される尺の長さ」の3点であったという。通常の実写映画であれば3億円程度が相場であるところ、10億円を超えれば興行収入30億円以上が必達目標となるため、製作会社としての全面出資は見送らざるを得なかった。

 しかし、完成した作品は、そのリスクをすべて「強み」へと転換させていた。市川氏は映画の普遍的な力を「いい題材、いい脚本、いい監督、いい俳優、いい音楽」の五角形で説明するが、『国宝』については「この五角形が肥大し崩れているとも言えます。何かの力が大きくグンと作用した」と、規格外の成功を分析している。

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