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【リスクをすべて強みに転換】映画『国宝』規格外の成功の裏にある、これまでの日本映画界の“悪しき常識”への反逆 最高の人材を機能させるために必要だった「12億円の製作費」

「ファンダム」コミュニティの形成

 カネと人が揃った場所に、魂が宿る。主演の吉沢亮と横浜流星が見せた献身は、称賛という言葉すら陳腐に聞こえるほど崇高なものであった。彼らは1年半以上もの時間を費やし、歌舞伎の稽古に没頭したという。血のにじむような修練を経て、舞台上で艶やかな役者へと変貌するその姿は、演技という枠を超え、ドキュメンタリーのような切迫感を持って観客の胸を打つ。

 興味深いことに、歌舞伎という伝統芸能を扱った本作が、若年層の熱狂的な支持を集めている。出自の異なる2人の男が、切磋琢磨しながら頂点を目指す物語は、若者たちが好む「熱い対決」の文脈と共振したようだ。SNS上では、彼らの関係性や演技の凄まじさが「口コミ」として爆発的に拡散された。

 当初は50代以上の女性層が中心だった客席が、若者たちで埋め尽くされるようになった現象は、「ファンダム」と呼ばれる熱狂的なコミュニティの形成によるものである。市川氏が「観客コア層の感動が熱量のある口コミとなり、幅広い世代へ拡大した」と指摘するように、アニメ『鬼滅の刃』などで目が肥えた現代の観客は、本物の熱量を見抜く力を持っている。彼らは、テレビ局が押し付ける流行ではなく、自らの感性で「推すべきもの」を選び取ったのだ。

 映画『国宝』が証明したのは、小手先の戦略の無効性と、本質的な「質」の強さである。安易な企画書を回し、内輪で利益を分配することに汲々としてきた者たちは、この光景を直視し、去るべき時が来た。映画は、情熱と狂気、そしてそれを支える冷徹な計算と資金があって初めて、人の心を動かす芸術となり得る。スクリーンの中で舞う役者たちの姿は、停滞した日本社会に対し、リスクを取って挑むことの尊さを静かに、しかし力強く問いかけている。これこそが、現代における「国宝」の正体なのである。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

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