背景にある鉄道業界の転機
この背景には、日本の鉄道業界がコロナ禍で直面した転機がある。
日本の鉄道業界では、多くの業務が長らく属人的だった。現場人材のスキルが高く、個人の経験や勘に頼る「職人芸」が当たり前だったからだ。それゆえ、欧州の鉄道で業務効率化を図る技術が開発されても、その導入に積極的になれなかった。
しかし、コロナ禍で転機が訪れた。鉄道利用者数は、ライフスタイルの変化で減少。今後は人口減少で減ることも懸念されている。鉄道事業を収益の柱とする従来のビジネスモデルが崩れ、鉄道事業者は新たな成長軸を模索する必要に迫られた。
また、人手不足に直面し、鉄道を支える人材の確保が困難になった。利用者数が多く、収益性が高い大都市圏の鉄道であっても、従来の方法で維持できなくなった。
そこで日本の鉄道事業者は、列車のワンマン運転化や駅員の削減などを進め、鉄道現場の省人化を図った。また、さらに一歩踏み込んで、DXによる業務効率化に着手した。
東武によるHMAX導入のイメージ。左から車両オンラインモニタリングシステム、チェックインチェックアウトシステム、メタバース(左・中央は東武鉄道提供、右は日立製作所提供)
いっぽう、日立は、鉄道の運行と保全を変えるソリューションとしてHMAXを開発し、昨年9月にイギリスの鉄道車両に搭載したことを発表した。現在、世界では、HMAXを搭載した鉄道車両が2000編成以上あり、運行遅延を最大約20%、保守コストやエネルギー消費量を最大約15%削減している。
日本の鉄道事業者は、このHMAXの導入に慎重だった。海外で実績を持つ魅力的な技術である反面、日本の鉄道現場にはその合理性を受け入れにくい文化があったからだ。
そこで東武が先陣を切った。同社は、本年11月に東武が日本の鉄道事業者で初となるHMAXの本格活用を発表。この出来事は、日本の鉄道DXが進むきっかけになり得る。
鉄道技術展の併催事業として11月28日午後に開催されたセミナーでは、グローバル企業5社が講演した。写真は日立のマリノ氏(筆者撮影)

