『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』
教訓は「キレたらゲームオーバー」
私は会社を立ち上げてまもない頃から、「何があってもキレたらゲームオーバー」という言葉を教訓にしていた。最年少上場を競ったライバルの社長が、親会社からの理不尽な要求にキレて、それを理由に追放されたのを見た時に感じたことだった。不調が続いたり、トラブルが続発したり、理不尽な目に遭ったりしても、忍耐強く続けること。それが長期の成功をもたらす。
株の世界では、「見切り千両、損切り万両」という言葉がある。でも、長く会社をやってきて思うのは、経営者側に立てば、中長期で目標やビジョンを達成するためには、忍耐力こそが「値千金」ということだ。長期にわたって揺るがない忍耐力があれば、感情のアップダウンを抑え、周囲からの信頼を獲得し、自分自身も困難を乗り越えることによって成長できる。
私自身も、取材などで「経営者として自分の強みは何か」と聞かれると、「忍耐力です」と答えている。良い時に調子に乗らず、悪い時に過度に悲観せず、長年会社を経営できることが自分の強みだと思う。私の生まれ育った福井県は、曇りの日が全国で最も多く、雪が多くて冬も長いことから、勤勉で忍耐強い人が多いという話を聞いたことがある。福井の地でそれが育まれたのかどうかは分からないけれど、忍耐力があったお陰でここまでこれたのだと思う。
馬主業は個人の趣味だから好き放題にやりたい気持ちもあるけど、やっぱり武豊さんの言う通り、「たまにいいことがある」くらいに思っておこう。
*藤田晋著『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(文藝春秋)より一部抜粋して再構成。
【プロフィール】
藤田晋(ふじた・すすむ)/1973年5月16日、福井県鯖江市生まれ。1997年に青山学院大学を卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。1998年、サイバーエージェントを創業し、代表取締役社長に就任。2000年には史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場、2014年に東証一部(現東証プライム)へ市場変更。現在は、インターネット広告やゲーム、メディアなど多角的に事業を展開している。2025年12月から同社代表取締役会長に就任。FC町田ゼルビア代表取締役社長、一般社団法人Mリーグ機構チェアマン、一般社団法人新経済連盟副代表理事。主な著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』、共著に『憂鬱でなければ、仕事じゃない』など。
