――“なんとなく”で決めないメリットは、何でしょうか。
山口:先ほど紹介した「総合評価表」に落とし込む最大のメリットは、自己理解が深まるという点です。表の横軸が判断基準なのですが、その内容や重み付けを考えることは、自分が何を大事にしているとか、何は我慢できるとか、に気づくきっかけになります。自分が大切にしていることややりがいを深堀りすることに繋がるのです。
そもそも、大学受験をするような子の多くは基本的に不自由なく暮らしており、自分の価値観を考える機会などあまりないでしょう。それなのに、急に「何がやりたいの」とか、「文系理系どっちなのか決めなさい」と迫るのは酷なことかもしれません。そうなる前に、“決め方”という方法論を通して、自己理解を深めておくのです。
―― 一方で、“大学全入時代”となると、今度は「大学に行かない」という選択肢を選びにくくなるのではないでしょうか。
山口:おっしゃる通りだと思います。ですので、表を作って終わりではなく、そこから親子での「対話」の機会を増やし納得度を深めることが大切です。実は子供はこういうことを考えていた、親にはそういう思いがあった、といったことをお互いに知ることですね。
表はきっかけにすぎません。きっかけもなく「あなた何になりたいの」とか、「俺、こういうことやってみたいんだよね」とか言い合っても、本当の“相互理解”にはなりにくい。日常会話でお互いのことがわかっているつもりでも、本音までは全然明かしていない、聞かないことがほとんどです。その対話のツールとして、表は抜群に有効です。
一方的な「キャリア教育」が招く危うさ
――高校からキャリア授業があるなど、生き方を考えさせる時間は昔よりも増えているのでは。
山口:キャリア教育といっても、「君は何になりたいのか? 夢は?」と問うだけで終わっているものが蔓延しています。「ドリームハラスメント」という言葉もあるぐらい、現代の子供たちにとって夢は「見るもの」から「持つもの」に変わりました。でもそうすると、なんとか夢を持たせようとする大人との間に溝が生まれ、大人にたびたび聞かれる「夢」を適当にやり過ごすようになり、結局進路を「なんとなく」決めてしまいます。ただ、大学進学や志望校合格は目標であって、目的ではない。そのことは注意したいポイントです。
―― 一方で、特に地方在住の女性はまだまだ「昭和」な女性像を求められるという実態もあります。
山口:まさしく、親や教員の方など、子供に直接的に携わっている方にこそ“決め方”を知ってほしいなと思いますね。そして、親も子もいろんなところから情報を得ることが大事です。ネットだけだと、どうしても自分から探しにいく情報しか知りえませんし、自分に都合のよい情報が集まりがちです。学校選びなら、ぜひオープンキャンパスなど、可能な限り現地に行ってほしい。自分の目で見て感じることが大切です。
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「決める」力は、その後さまざまな局面で必要なスキルだ。第3回記事では激動の時代を生き抜くために、ものごとを「決める」際の重要なことについて、山口氏に解説してもらった。
(第3回記事に続く)
【プロフィール】
山口大輔(やまぐち・だいすけ)/(学)河合塾学校事業推進部部長。1996年河合塾入塾。営業として東京都内の高校を担当。2002年より名古屋大学との共同研究に参画しテスト理論を学び、新商品開発に携わる。その後、模試事業企画を経て2009年より新規事業企画に従事。非認知能力や職業適性を測るアセスメントテスト『学びみらいPASS』のほか、意思決定の方法を学ぶ『ミライの選択』などの開発に携わる。著書に『人生で必要な決め方はすべて「進路選択」で学べる』(東洋経済新報社)