ノーベル生理学・医学賞受賞者で、『夢中が未来をつくる』著者の山中伸弥氏(提供・京都大学iPS細胞研究所)
悪いことが起きたとき、人のせいにしてしまう。良いことがあっても、当然のように受け止めてしまう――。そんな心の持ち方では、レジリエンス(困難から立ち直る力)は育たないと、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥氏は言う。母から教わった「身から出たサビ」と「おかげさま」の精神、そして柔道の恩師が最期に語った「レジリエンス」の本質とは。山中伸弥氏の著書『夢中が未来をつくる』より、しなやかに生きる知恵について紹介する。
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「身から出たサビ」と「おかげさま」
母からは次のことを学びました。
「悪いことがあったときは、『身から出たサビ』つまり、すべて自分のせい。よいことがあったら、おかげさま。人様のおかげ」
私は中学、高校と柔道をしていましたが、高校生のとき、教育実習に来ていた柔道三段の大学生に稽古をつけてもらったときのことです。
あたりまえですが、組み合うととても強いので私はかないません。なんとか投げられまいと粘ったところ、受け身をとれず変な手のつき方をしてしまい、グキッという嫌な音がしました。
すぐに近くの病院に行って診てもらうと、腕の骨が折れているとのこと。その夜に、教育実習の大学生からおわびの電話が入りました。
電話をとったのは母でしたが、電話ごしにも、その大学生が申し訳なさそうに謝っているのが聞こえました。
ところが、それに対して母はこう答えていました。
「いえ、悪いのはうちの息子です。きっと受け身をとらずに手をついてしまったんだと思います、たいへんご迷惑をおかけしました」
我が母ながら偉いなあと思いました。悪いことがあったら自分のせいだということを、母は実際に、このように教えてくれたわけです。逆によいことが起こるのは、必ずまわりの人たちからの協力や応援があったからこそなのです。
母は、父が早く亡くなってから工場を引き継いで、一人で経営をしながら、研修医だった私や姉の生活を支えてくれていました。慣れない経営を引き継いだので、私が知らないところで大変なことも山ほどあっただろうと思います。
しかし亡くなる直前にはそんな苦労など何もなかったように、まわりにいる人たちにいつも「ありがとう」と言っていました。人に対して「おかげさま」という姿勢をずっともち続けていました。
母の教えは、いまでも私のなかに生きています。何かあるたびに、「悪いことがあれば身から出たサビ、よいことがあればおかげさま」と自分に言い聞かせているのです。
