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山中伸弥氏が語る半生のエッセンス

ノーベル賞受賞者・山中伸弥さんが大切する2つの教え 母から学んだ「身から出たサビ」「おかげさま」の精神と、柔道の恩師に教わった「レジリエンス」の本質

柔道の恩師が残してくれた教え

 中学時代、柔道を指導してくださった恩師である西濱士朗先生からも、大切な教えをいくつもいただきました。とても厳しい先生で、最初の三か月はひたすら受け身の練習ばかりでした。

 西濱先生は柔道の実力があっただけでなく、すばらしい人格をもった方でした。ただ強くなるだけが柔道ではない、「心・技・体」といって、心のあり方や人としての生き方もまた大切だということを教えてくださいました。

 そんな先生でしたから、教え子たちからもとても慕われていました。

 私が最後に先生とお会いしたのはノーベル賞をいただいた数年後のことです。先生のがんが再発し予後がよくないことを知り、友人とともに先生を訪ねました。

 先生は、あと数か月しか生きられないことを知っているのに、以前と変わることなく矍鑠(かくしゃく)とされていました。そして、私にこんな話をしてくださったのです。

「山中、レジリエンスという言葉を知っているか」

 その当時の私には聞きなれない言葉でした。

「レジリエンスというのは、つらい出来事があったときに、それに順応していくしなやかな心のことだ。たとえば震災や大災害があって家や家族を失ってしまう不幸な人がいる。そこから立ち直れないままになる人もいれば、もう一度立ち上がっていく人もいる。

 まっすぐに立っている木は雪が積もると、その重みで折れてしまうこともあるが、竹のようなしなやかさをもっていたら、どんなに雪が積もっても折れることはない。そういう本当の強さのことだ」

 さらに先生は、こんなふうに語ってくれたのです。

「そんなしなやかな強さ、レジリエンスというのは鍛えていくことができるんだよ」

 先生からそのように言われて、私は「先生こそ、レジリエンスそのものですね」と返しました。

 自分の命がもうすぐ尽きるとわかっているのに、おだやかな心で静かに話をされる先生の姿そのものに、しなやかな強さを感じたからです。

 すると先生は私の目をまっすぐに見て、こう言いました。

「そうなんだよ、こんな状態なのに、なぜこんなに強くいられるんだろうと自分でも不思議なんだ。きっとそれは、みんなに感謝しているからだと思う」

 たしかに先生は、たくさんの人に支えられていました。病気になって入院したときの主治医は、かつての教え子です。奥様もご家族も、友人たちもみんなが先生のことを心配し、いろいろと世話をしにきてくれていたのです。

「柔道も練習したら強くなるだろう。だから、心も鍛えたらしなやかに強くなっていくんだ。でも、自分一人ではダメだ。多くの人に支えられて、感謝することによって、レジリエンスは強くなっていくんだ」

と先生は教えてくださいました。

 それからしばらくして先生は亡くなりましたが、先生が私の心に残してくれた最後の教えは、いまでも私が生きていくうえで支えになっています。

※山中伸弥・著『夢中が未来をつくる』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成

【プロフィール】
山中伸弥(やまなか・しんや)/1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。
2010年より京都大学iPS細胞研究所所長、2022年より同名誉所長。2007年より米国グラッドストーン研究所上席研究員を、2020年より公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長を兼務。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製成功を発表し、これらの功績により2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞。

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