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山中伸弥氏が語る半生のエッセンス

ノーベル賞受賞者・山中伸弥さんが振り返る“iPS細胞が初めて人間の心臓の細胞に変化した瞬間” iPS細胞を使った心不全、パーキンソン病などの治療はどこまで進んでいるのか

 また、パーキンソン病という病気があります。手足が震えたり体が動きにくくなったりする怖い病気ですが、これは、脳の奥にある特殊な神経の細胞──全部集めても米粒一粒ぶんほどの小さな部分です──のなかの、たった一種類の神経細胞の異常によって引き起こされます。

 通常は脳のなかにつくりだされるドーパミンという物質が、神経細胞の異常のためにつくられなくなってしまうのが、この病気の原因です。

 iPS細胞によってドーパミンをつくる神経細胞をつくりだせるようになり、じゅうぶんな安全性を確認した結果、2018年から実際にパーキンソン病の患者さんたちへの治験(試験的に治療すること)がおこなわれました。

 それから6人の患者さんにつき2年の経過をみていき、副作用(細胞移植によって起こる、目的以外の好ましくない作用や症状)などはみられず、移植した神経細胞がドーパミンをつくり続けていることも確認されました。

 安全性が確認でき治療への効果も期待できるため、実用化に向けての準備が進められています。

がんで亡くした親友のために

 もう一つ、がんという怖い病気があります。いま、2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで亡くなる時代に入っています。がんの克服は人類がずっとつきつけられてきた課題です。

 私の親友だった元ラグビー日本代表監督の平尾誠二さんも、がんで亡くなりました。

 平尾さんと出会ったのは、私が48歳のときでした。平尾さんは私と同い年です。私も大学時代にラグビーをやっていましたが、高校時代から有名な選手だった平尾さんは、私にとってあこがれの存在でした。

 雑誌の対談でごいっしょさせていただき、イメージどおりの、いやそれ以上のかっこよさと、人へのやさしさがあふれるそのお人柄に、すっかりほれこんでしまいました。

 それから1、2か月に一度のペースで、食事やゴルフに行く仲になり、家族ぐるみでおつきあいするようになりました。

 そんな平尾さんががんの告知を受けたのは、それから5年ほどたったころでした。胆管がんで数か月の命だと宣告を受けたのです。

 そのことを知ったとき、私は声を上げて泣きました。あこがれの人と親友になって、これからいっしょにいろんなことができると思っていたのに、なぜこんなことに──。

 それでもまだ一縷の望みをかけて、私は必死に治療法を探し続けました。平尾さんも、私がすすめる治療法には素直にしたがってくれました。

 私が平尾さんにすすめたのは、免疫療法というものでした。私たちの体には免疫というしくみがあり、がん細胞ができると、免疫細胞がそれを異物とみなして退治してくれるのです。

 この免疫細胞がしっかり働けるようになれば、がん細胞は減っていきます。平尾さんも免疫療法の新しい薬の治験を受けることができたのですが、あまりよい結果が出ませんでした。

 それからも必死で治療を続けたものの、残念なことに平尾さんは53歳の若さでこの世を去ってしまいました。

 いま、iPS細胞から免疫細胞をつくり、がん細胞をなくしていくというがん治療の研究が進んでいます。

 父は肝臓の病気にかかり、当時は治療法がなかったために亡くなってしまいましたが、その後の研究により、いまでは肝臓の病気を治せるようになりました。科学の進歩で救われる人は増えるのです。

 平尾さんのようながんにかかった人でも、新しい治療法が生み出されれば、命が救われるケースが増えていくに違いありません。

 iPS細胞によって一日も早くそのような日が来るよう、研究者たちは一生懸命がんばっています。

※山中伸弥・著『夢中が未来をつくる』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成

【プロフィール】
山中伸弥(やまなか・しんや)/1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。
2010年より京都大学iPS細胞研究所所長、2022年より同名誉所長。2007年より米国グラッドストーン研究所上席研究員を、2020年より公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長を兼務。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製成功を発表し、これらの功績により2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞。

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