いまやオフィスでカジュアルな服装は当たり前になったが(写真:イメージマート)
かつて男性ビジネスパーソンの恰好と言えば、「スーツにネクタイ」が当たり前だったが、2005年に夏場のクールビズファッションが提唱されて以降、どんどん自由になっている印象だ。公務員であってもカジュアルな恰好で仕事をする人もいる。だが、すでにリタイアしているかつての“企業戦士”からは、この風潮を嘆く声も聞こえてくる。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏がレポートする。
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かつて、ホワイトカラーのビジネスマンにとって、スーツにネクタイは制服のようなものでした。私が先日、話を聞いた、70代後半の元自動車部品メーカー社員・A氏は、1960年代後半に会社へ入りましたが、灰色のスーツ(当時は「背広」と呼んでいた)にネクタイをするのが、社会人として、ビジネスマンとしての象徴だったと言い、「入社日にスーツに袖を通した時、改めて社会人となったことを実感し、身が引き締まった」と振り返ります。
現在70~80代の元ビジネスマンは高度成長期に「モーレツサラリーマン」「企業戦士」として働いてきました。その時の象徴が「ドブネズミルック」とも揶揄された灰色(鼠色)のスーツとネクタイです。社会の歯車となる無個性の象徴と指摘されることもありましたが、A氏は経済が発展し、生活がより便利になっていった様を目の当たりにしていたこともあり、この恰好への誇りと愛着があるのです。
だからこそなのでしょう。2005年、50代後半の時にクールビズが導入された時も、半袖のYシャツにしたものの、ネクタイは外しませんでした。A氏の会社は大手自動車メーカーに部品を販売する立場で、得意先に対してノーネクタイでは失礼だと感じたのです。クールビズについては、「誰が最初にネクタイを外すか」といった逆チキンレースのような展開になり、初年度はなかなか外せない雰囲気もありましたが、以後、夏場のノーネクタイ、ノージャケット(ないしは薄手ジャケット)は定着。毎年少しずつ、カジュアル化が進み、現在に至っています。
「プライベートの延長のようだ…」
しかし、再雇用と転職を経た後に、60代後半で完全リタイアしたA氏は、どんどん自由化するビジネスマンの恰好に、いまも違和感を覚えていると言います。
「状況に応じた恰好というものがあると思います。もちろん、休みの日にスーツを着る必要はないです。でも、商談の時には互いにスーツを着ているべきだと思います。スーツを着ないにしても、それは客側だけであるべき。最近は市役所職員や、保険代理店の担当者もスーツを着ていないことがある。ジャケットを羽織るなどはしていますが、その下はYシャツとネクタイではなく、セーターだったりする。なんだか私としては、『プライベートの延長のようだ……』と複雑な気持ちになってしまいます」
筆者も先日、県庁の職員や広告会社の人を交えて会食をしたのですが、「ドブネズミルック」は一人もいませんでした。恰好は県庁上司が紺のスーツに白Yシャツ(第一ボタンを開けてノーネクタイ)だった以外、全員スーツ非着用でした。県庁職員2人はジャケットこそ着ていたものの、その下はタートルネックのセーターだったり、柄の入った襟付きシャツだったりしました。
広告会社などマスコミに従事する会社員は従来からカジュアルでしたが、公務員もこのように自由な恰好になっているのです。IT企業の若手など、ヒップホップミュージシャンのような恰好をしていたり、夏場になると短パンを履いたりもしている。それだけビジネス上のタブーが減ったといえるし、気温によって自分に快適な恰好をしている、と言えるでしょう。
