【写真】筆者が「自分へのご褒美」として買ったチョコ
スーパーでチョコレートの種類が豊富になるのは嬉しい
広告会社に入った1997年からの数年間は、バレンタインデーの義理チョコ文化に違和感を覚えました。当時、私がいた部署は正社員の男性4人、正社員の女性1人、派遣社員の女性1人、別の会社から出向していている女性1人という構成でした。派遣社員と出向者の女性は我々男性4人にチョコを丁寧に渡してくれた。正社員の女性(ベテラン)は「アンタ達、これ、置いとくよー!」と部署にあるお菓子の入った箱にチョコを入れていた。
このように女性社員の中でも、立場の違いにより、チョコを準備する基準は異なっていたのです。なお、正社員女性であっても、入社3年目ぐらいまでの若手社員は、各男性社員に渡すチョコを用意していました。
さらに、取引先でもこの儀式はあり、「クライアントに対して、広告会社の女性社員がチョコを渡す」「下請け会社の女性社員は発注主である広告会社の男性社員にチョコをくれる」。好意の有無は別にして、とにかく「女性から男性にチョコを渡す」という習慣だったのです。
その後、徐々にチョコ熱は下がっていった印象ですが、2010年ぐらいまで、1月25日を過ぎた頃には、飲み会でもチョコを渡されるような風習が続いていました。ただし、毎年その数は減っていった。ここ数年、チョコをもらうことなどほとんどない。
年賀状・お中元・お歳暮もそうですが、儀礼的なものにお金を使うのは無駄だ、という割り切りをする時代になったのかもしれませんね。そもそも、バレンタインデーに女性が男性にチョコを渡すという習慣は、チョコレートメーカーが1950年代に提唱し、定着に至りました。「ニッパチ」と呼ばれる2月と8月に消費を喚起する目的もあったでしょうが、それが大衆の熱狂により妙な義務感や同調圧力、さらにはマウンティングにも繋がってしまった。
しかし、今は「自分へのご褒美」的にチョコを買う人も増えていますし、私自身もバレンタインデーは、スーパーでチョコレートの種類が豊富になり、大好きなキャラメル系やティラミス系を買える時期、といった扱いにしています。義理で金銭的な負担を強いるのは問題でしょうし、3月14日のホワイトデーでは、「3倍返しが当たり前」といったこれまた妙な風習も誕生し、こちらは男性に負担があった。
そう考えると、義理チョコも含め、そうした儀礼が排除されつつある現在のバレンタインデーは、多種多様なチョコレートを楽しめる時期、という感覚になっていて、これはチョコレート好きの人にとっては良い流れですね。これが健全だと思います。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は稲熊均氏との共著『ウソは真実の6倍の速さで拡散する』(中日新聞社)。
