「連絡役」だった地面師・カトウ。刑期を終え社会復帰している
運転手役の不起訴処分に「刑事も驚いていた」
連絡役としてカミンスカスや土井らを中継したカトウの逮捕は、警察にとって重要な鍵となった。カトウは出頭後2週間ほどは“否認”を続けたが、逃れようがない捜査資料を突きつけられ観念し「自分がやったことは認めます」と自白した。
最終的にメンバーは総勢17名が逮捕され、主犯格の3人やカトウら10人が有罪判決を受けた。一方で、起訴と不起訴の境界線がいかにも曖昧に感じる点もある。
例えば、カトウと共に長谷川を車に乗せ商談に向かった運転手役の岡田健(仮名)。その不起訴にはカトウも驚いた。
「岡田も『地主が偽物とは知らなかった』で通したはずだけど、彼は地主を偽った口座作りに関与したり、積水ハウスとの内覧会をなりすましの地主不在で進めるための委任状作りを手配したりと、俺と同じ動きをしてた。刑事も不起訴の結果に驚いていたほどだった」
また、詐取金の口座の用意に関わった2名も不起訴処分になっている。
それが、かつて地面師事件で受刑歴もある佐々木利勝と北田文明である。
「本当に知らないほうが後々の捜査で身を助ける」
私は今もなお不動産ブローカーとして活動する佐々木に取材を行なった。佐々木は事件の関与について、明け透けに答えた。
「まず北さん(北田)から銀座のバーに『頼み事がある』って呼び出されたんです。それまでゴルフに行く仲だったけど“頼み事”は初めてで。『ある不動産取引の売買で使う口座を探してる』と。これは何かやってんなってピンとはきたよ。でもそれが五反田の土地だとか積水ハウス相手だとは知らない。こういう時、本当に知らないほうが後々の捜査で(自分の)身を助けるのでね」
この時、佐々木は金額だけ北田に聞いた。
「北さんは『何億(円)じゃないの』って。だから俺は『手数料だけちょうだい』と言って了承した。口座用意を頼んだのは古くからの知人で会社経営者の多田さん(仮名)。合計3つの口座を用意してもらった」
3つの口座には積水ハウスとの本決済時に20億6000万円が入った。これらを北田と佐々木と多田の3人で、口座が差し押さえになるまでにほぼ全額引き出したのだ。
佐々木が手数料と称して得た金は1億5000万円。何に使ったのか?
「その当時に同棲してた内縁の妻の手術費と温泉地のマンションの部屋を買ったのと、知人に金を騙し取られたり(笑)。これらは回収不能ですね」
今も残る謎は、詐取された総額55億円の行方だ。カネはどこに消えたのか──その謎を、北田が著者に明かした。中編で詳報する。
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【つづきを読む→】獄中の“黒幕”が明かした、積水ハウスから詐取した55億円の行方
【プロフィール】
河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。積水ハウス55億円詐欺事件の実行犯を取材した『地面師連絡役カトウ』で、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞。同書は6月18日に発売。
※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号
