原発をめぐる「嘘」はなぜなくならないのか?(イラスト/井川泰年)
中部電力の浜岡原発で、耐震設計の基になる「基準地震動」のデータ不正が発覚し、同社の社長と会長が辞任に追い込まれた。なぜ原発をめぐる電力会社の不祥事は後を絶たないのか。日立製作所の元原子炉設計者で経営コンサルタントの大前研一氏が“原発ムラ”の構造を踏まえて、解説する。
地元の住民説明会では「絶対に安全ですと言え」と命じられた
中部電力は浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)3・4号機のデータ不正問題で林欣吾社長と勝野哲会長が9月末で辞任し、再稼働に向けた原子力規制委員会への審査申請を取り下げた。
外部の弁護士でつくる調査委員会の報告書によると、再稼働のスケジュールに影響が出ることを避けるため、原発の耐震設計の基になる最大の地震の揺れ「基準地震動」が審査申請時の1200ガルを大幅に超えないよう意図的にデータを操作していた。不正は2012年頃に始まり、地震動を算定した225件のうち少なくとも208件で不正があったと報じられている。まさに“底なし”である。
だが、この問題は起こるべくして起きた。なぜ原発をめぐる電力会社の不祥事が多いのか? 原発に関して嘘をつくのか? かつて日立製作所の原子炉設計者として“原発ムラ”にいた経験から解説したいと思う。
私が日立製作所に勤めていたのは半世紀以上前だが、当時から原発に関しては「本当のこと」が言えなかった。原子炉の設置を予定している地元の住民説明会では「絶対に安全ですと言え」と会社から命じられた。事故の可能性を真摯に伝えると住民から「設置反対! 帰れー!」と罵声を浴びて石もて追われ、反対運動が先鋭化するからだ。
しかし、自動車や航空機の事故と同じく、原発も「100%安全」はあり得ない。確率論の問題なのに、日本では「絶対」安全が求められるのだ。アメリカでは1979年にスリーマイル島原発2号機がメルトダウン(炉心溶融)事故を起こしたが、地元住民に確率論が通用するので、その後も1号機は運転されている。地元住民と何度も避難訓練をするなどして、今では信頼関係ができている。一方、日本で避難訓練をしようとすると「お前たちはその必要性があると思っているのだろう! 正直に言え!」と怒号が飛ぶのが常なのだ。
