日本人の世帯所得と幸福度の関連を調査した大阪大学の研究では、世帯所得150万円までの幸福度は低く、それから所得が上がるに連れて幸福度が上昇する。しかし500万円を境に上昇曲線はほぼ横ばいになり、世帯所得が1500万円を超えると、逆に幸福度が下がった。この調査を行なった筒井義郎・大阪大学名誉教授(甲南大学特任教授)が指摘する。
「お金で手に入る物質的な満足感は、一定の生活水準に達したら、それ以上大きく上がりません。それなのにもっと稼ごうと無理をして健康や家庭などを犠牲にすれば、収入が増えても幸福度が下がってしまう怖れがあります」
こうした傾向は現役世代に限らない。この調査ではシニア世代ほど資産と幸福度の相関関係が薄れることがわかっている。定年後の生活を支える礎となる資産でも同様の結果が出ているのだ。
三菱総合研究所のシニア調査と、それに追加項目を加えたマーケティングアナリスト・三浦展氏が主宰するカルチャースタディーズ研究所の調査によると、「2000万~3000万円」の金融資産を持つ人の約64%が「幸せ」と回答したのに対し、老後の資金としては心もとない「200万~500万円未満」でも60%弱が「幸せ」と回答した。“生活が苦しくて老後の生活がカツカツ”と思われがちな「200万円未満」の人でさえ、半数以上が「とても幸せ」「幸せ」と回答した。
社会に必要とされる幸せ
老後の生活にお金が必要なことは間違いないが、それだけでは「幸せ」だとは言えない。とすれば、カネ以外の何が「幸せな老後」を左右するのか。筒井教授は「現在の存在感」がキーワードと言う。
「もちろん老後資産は大切ですが、定年を迎えた男性の場合、今の社会の中で存在感を感じられるかどうかが重要です。仮に会社で役職について出世し、多くの資産のある人でも、定年後にやりがいがなければ幸福度が下がり、資産が少なくても、生きがいを持てれば、“自分は幸せだ”と感じられます。
生活水準が上がれば幸福度は上がりますがそれは一時的なもので、慣れてしまえば元に戻ってしまう。それに対し、友人とのおしゃべりや趣味に没頭するといった精神的な充実感の方が幸福度は上がったまま長時間続きます。定年後はどうすれば精神的満足感を得られるかを考えることが幸福度を上げるカギかもしれません」
※週刊ポスト2018年6月15日号