中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

文系出身者が「これは役に立った」と感じた大学の講義

 ここに割って入ってきたのが、教養課程で同様の講義を受講したという、農学部出身の40代男性・B氏です。彼は自身の専門であるバイオ技術とはまったく関係のない編集・ライター仕事をしています。

「ゲーム理論の考え方を知っておけば、失敗しても納得できるんですよね。色々な選択肢からもっとも合理的なものを選んだ結果だから『しょうがないや』と自分の決断について後悔することなく、納得できるのです」

この講義に出会えただけで大学に行った価値があった

 商学部出身の私自身に関しては、営業や企画などすべての場面において「人の気持ちが分かる」ということが非常に重要だと感じています。それを学べたのが楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科教授。専門は競争戦略)の「生産管理」という講義です。基本的には、いかにして生産性を上げるか? をケーススタディとともに学ぶ講義でしたが、その中でも非常に印象に残っているのが、当時人気だったレストランチェーン「アンナ・ミラーズ」の女性従業員がゲストスピーカーとして来た時の話です。

 同店は、ウェイトレスが短いスカートをはき、胸を強調する制服で知られており、男性客がそれを楽しみに行くような側面がありました。現在でいえば「Hooter’s」のようなものかもしれません(東京・品川に今でも1店舗ある)。

 講義は、楠木先生が、制服を着て前に立つ従業員に質問をしながら、彼女が若干緊張しながら答えていくスタイルで進行していきました。楠木先生は、店舗まで行き、「講義に出てもらえませんでしょうか。制服を着て」とお願いしたのだといいます。講義はこんなやり取りで進行していきました。

楠木先生:「アンナ・ミラーズって従業員募集の倍率は高いのですか?」
店員:「それなりに高いですね。というか、けっこう高いです」
楠木先生:「でも、時給は別に一般的なファミレスと比べてそこまで高いわけではありませんよね」
店員:「そうです」
楠木先生:「しかも、こうして脚を出し、まぁ……、胸も強調するような感じの制服を着ているではありませんか。男の客はじろじろ見るでしょうし。それでいてその時給でいいんですか?」
店員:「いや、むしろ私はこの制服を着たかったんです。この制服を着ている時の自分が好きだし、時給を超えたやりがいがあるんです」

 私達学生はアンナ・ミラーズの裏側を知ることができ、単純に面白かったのですが、実はこの講義で楠木先生が伝えたかったのは「いかにして従業員のモチベーションを引き出すか」ということだったのです。時給が安くとも、この仕事をやりたい、自分に対して自信を持つ女性が多数応募する中から高倍率を勝ち上がったという自尊心が得られる。客も食べ物だけでなく自分を目当てにやってきてくれている、ということにモチベーションが高まったというケーススタディになっていたのです。

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