大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

“台湾のトランプ”は米中貿易戦争の救世主になれるか

鴻海精密工業会長の郭台銘氏が台湾総統になったらどうなるか(イラスト/井川泰年)

鴻海精密工業会長の郭台銘氏が台湾総統になったらどうなるか(イラスト/井川泰年)

 泥沼化する米中貿易戦争に着地点が見えないなか、2019年1月の台湾総統選がいっそう混乱の輪を広げそうだ。世界最大の電子製品受託製造サービス(EMS)企業・鴻海(ホンハイ)精密工業会長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏が国民党の候補として出馬を表明し、台風の目となっている。経営コンサルタントの大前研一氏が、“台湾のトランプ”とも言われる郭氏出馬が米中貿易戦争に与える影響について考察する。

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 私は鴻海精密工業会長の郭台銘氏と面識があり、何度か1対1で相談に乗ったことがある。シャープ買収が話題になっていた時も、アドバイスが欲しいという電話があった。たまたま私は別件で台北を訪れていたのだが、彼は主力工場がある中国・成都にいたので「そちらに行く時間はない」と答えた。

 すると郭氏は、押っ取り刀で成都からプライベートジェットのガルフストリームに乗って台北の松山空港に飛んできた。そして空港で私と合流し、ミーティングが終わったら再び成都に戻っていった。

 だが、基本的には郭氏は少数のスタッフ以外はほとんど人の意見を聞かず、誰にも相談せず、自分の思いつきで自分が正しいと思ったことを次々に断行するタイプである。タガを嵌められる人間はいない。そういう意味では、ソフトバンクグループの孫正義会長とよく似ている。

 また、郭氏は目標が定まると死ぬほどそこに集中し、決して現場任せにはしない。たとえば、かつて鴻海精密工業がアップルのiPhoneを言語や電圧や周波数が異なる世界中の国々の発売日に合わせて1日で800万台出荷した時、彼は3週間くらい前から成都の工場に寝泊まりして陣頭指揮を執っていた。アップルのスティーブ・ジョブズが要求する無理難題には一度もNOと言わなかった、という逸話もある。上昇気流に乗った経営者としては模範を絵に描いたような人物だ。

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