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三越伊勢丹、社長が佐治敬三氏だったら萎縮社員に「やってみなはれ」

サントリーの二代目社長・佐治敬三氏

サントリーの二代目社長・佐治敬三氏

 サントリーというと、創業者である鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」の精神が経営の軸だが、それを実践してきたのが佐治氏だった。

 1960年代にウイスキーブームがあり、洋酒メーカーのサントリーはウイスキーさえ売っていれば経営は安泰だったが、佐治氏は「やってみなはれ」の精神で1963年にビール事業を立ち上げた。ところが、大手3社体制のなかでなかなか軌道に乗らず、ビール事業が黒字化したのは46年後の2009年で、執念で事業を成り立たせた。

「やってみなはれ」は正確には「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」で、やってみるからこそ気づくこともあるという精神。実践主義であり、リスクを取りに行くという考え方でもある。佐治氏なら伝統を否定されつつある三越伊勢丹の社員に、この言葉をかけるだろう。

 佐治氏は大衆の心、欲求を敏感に察知することができる経営者でもあった。大衆に迎合するのではなく、本当に求めているものを察知して提示することができた。

“ダルマ”の愛称で親しまれた「オールド」はサントリーの大ヒット商品で、1970年代には寿司屋でもボトルキープされ、日本料理には日本酒という常識を覆した。当時、主流だった「角瓶」より少し上で、スコッチほどではないという絶妙な立ち位置で、大衆が豊かさを味わえる商品だったのである。

 百貨店が流通業の主流である時代は終わったが、百貨店が人々に豊かさ、贅沢さを提供する役割は変わっていない。だからこそ、人の心をつかみ、豊かさの演出ができるような人に経営を委ねることは有効な手段だと思う。

※週刊ポスト2020年8月14・21日号

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