真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

緩和縮小でも株高に導く「パウエル・マジック」 株式市場に3つのシナリオ

 心理学では「止まりの慣性」と言って、今までの思考を維持しようという心理的な力学が働く。「慣性の法則」とも言い、変化に対して無意識に心のブレーキをかけようとする。現在の金融市場に置き換えると、「低金利」「カネ余り」という“ぬるま湯”にずっと浸かっていたいと思わせるわけだ。今回のパウエル議長の発言は、そうした市場心理をよく読んだうえで発せられたのである。

米国株を中心に株高基調がメインシナリオだが…

 だとすれば、ここはムードに流されず、冷静になって今後を見据えておく必要があるだろう。この先、金融市場に流れ込んでいる大量の資金が吸い上げられる以上、考えられるシナリオは次の3つとなる。

【1】メインシナリオ

 新型コロナワクチンの接種率が上がり、デルタ株やラムダ株といった変異株の懸念は残るものの、世界的な感染拡大に歯止めがかかり、経済活動が徐々に正常化していく。テーパリングに伴って株価の上値は重くなるが、それでもまだ市場に流入していない待機資金もあるため、しばらくは大きな下落も考えられず、米国株を中心に緩やかな株高基調が続くことが予想される。このメインシナリオになる確率は40~50%といったところだろう。

【2】楽観シナリオ

 ワクチンの効果が思った以上に上がり、変異株を含めた感染拡大も収束に向かい、経済活動の正常化が想定以上に早まる。現時点では業績好調な企業と不振な企業の格差が広がる「K字回復」となっているが、正常化とともに「K字」の下向きの矢印も上向いて「C」の字のように全面的な回復も期待されるようになるだろう。景気の回復に伴って景気敏感株の多いNYダウは上昇する一方で、緩やかな金利上昇もあってグロース株の魅力が薄れ、グロース株の多いナスダックを中心にIT株は上がりにくくなるかもしれない。そうした楽観シナリオとなる確率は約20%と見ている。

【3】悲観シナリオ

 ワクチン接種が進んでも、デルタ株やラムダ株への効果は限定的で、コロナの感染拡大に歯止めがかからない可能性もある。そうなれば、経済の正常化は後ズレが必至、景気敏感株は総崩れとなり、特に「世界の景気敏感株」といわれる日本株は10~15%の調整も想定される。一方で、金利は上がらないためグロース株が買われやすくなり、ナスダックは上昇。NYダウが軟調となって、日本株はさらに弱くなることが見込まれる。そうなる確率も10~20%は考えられるのだ。

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