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東京の銭湯はピーク時の5分の1以下 燃料費高騰の逆風に立ち向かう経営者たちの創意工夫

銭湯といえば富士山。銭湯絵師・中島盛夫氏による赤富士(男湯)。女湯には青富士が描かれている

銭湯といえば富士山。銭湯絵師・中島盛夫氏による赤富士(男湯)。女湯には青富士が描かれている

 岡嶋さんが本格的に銭湯経営に携わったのは約10年前。サラリーマンを辞め、父親のあとを継いだ。「親が一生懸命残してきたものを守りたい」、そんな気持ちからだった。しかしその際、「今の並の銭湯のままではいけない。自分は特上の銭湯を目指そう」と心に決めた。当時は男性や年配の常連客が多くを占めていたが、現在の豊川浴泉は女性や学生などの若い客も多い。

「燃料費の他、水道代も上がっているのでたしかにコストは倍になっています。それでも僕が銭湯経営を続ける理由は、お客さんを見るのがうれしいから。湯上がり後は、みなさん本当にいい表情で店を出ていかれる。内風呂が当たり前の時代にあって、今でも銭湯に足を運んでくれるお客さんに報いたい」(岡嶋さん)

創業時からの柱時計と電灯。令和の現在も現役だ

創業時からの柱時計と電灯。令和の現在も現役だ

 サウナブームの中、昭和建築で営業を続ける豊川浴泉には新規にサウナを設ける余裕はない。そこで、ドライヤーは美容に特化した最新型のものに変え、思い切って使用無料にした。シャンプーやコンディショナーの質にもこだわった。男性用脱衣所で、剥き出しだった無骨な鉄管には竹のシートを貼り、雰囲気を和らげた。ところどころに四季を感じさせるあしらいをディスプレイすることも忘れない。こうした小さな工夫や掃除の行き届いた清潔さが、自家風呂保有率が9割超えとなった今でも、若い客が絶えない理由となっているのだ。

いちばん近くにあるレジャースポットであり続ける銭湯

大塚記念湯(東京都豊島区南大塚3-38-15 JR山手線大塚駅徒歩3分)

大塚記念湯(東京都豊島区南大塚3-38-15 JR山手線大塚駅徒歩3分)

「気がついたら、『大塚』と名の着く銭湯もうち1軒だけになってしまいました。燃料価格がこれからどこまで上がるのか、本当に恐ろしいと思います。だけどこれからも、地域をつなぐ社交の場であり続けたい」

 こう語るのは、「大塚記念湯」の女将・安中妙子さんだ。

「大塚記念湯」はサウナ施設「ニュー大塚」も併設しているビル型の銭湯で、現在の建物は昭和62年(1987)に改築したときのもの。創業は大正時代で、大正から昭和に元号が変わることを記念して「記念湯」と名付けられたと伝わる。

 ビル1階の「大塚記念湯」は、珍しい「宇宙の天井絵」があることで有名だ。男女の脱衣所いっぱいに広がるロケットや人工衛星の絵は、新築だったころのビルオーナーが自身でデザインし、特別に発注したのだという。現在は同じものをもう一度作るのは難しいことがわかり、都内唯一無二の個性的な天井絵がある銭湯として知られている。

右から女将の安中妙子さん、若女将のキミヨさん

右から女将の安中妙子さん、若女将のキミヨさん

 妙子さんの娘のキミヨさんは、若い世代ならではの発想力で銭湯の魅力を積極的に発信している。たとえば、大塚にはライブハウスや音楽スタジオが多いことに着目し、銭湯が休みの日にアイドルライブを浴場で行ったのもそのひとつだ。

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